最終年度は,リカッチ方程式ではなくルアー方程式の近似解法についての検討を行った。しかしながら,ルアー方程式の良好な近似解は得られなかった。それゆえ,確率的平衡実現打切り法としての新たな進展はなかった。 一方,本研究の研究成果については,2019 Nonlinear Circuit Networksにおいて研究発表を行った。内容としては,確率的平衡実現打ち切りとは何かについて要約した後に,受動性を保証して低次元化モデルを作成する難しさについて説明を行った。特に,理論的には受動性が保証されている場合にも,数値的にはリカッチ方程式の解で,僅かに負となる固有値が現れてしまうことを示した。この場合に,従来のアルゴリズムでは平衡実現打ち切りを実行することができないが,提案したアルゴリズムでは負の固有値が発生した場合にも,それを補正しながら平衡実現打ち切りが実行できることを説明した。本発表については多くの質問があり,負の固有値に関するもの他に演算効率がなぜ良いのかについての質問があった。これについては,本提案アルゴリズムは行列のスパース性を考慮したアルゴリズムであることを回答した。その他,2019 International Symposium on Nonlinear Theory and its Applicationsにおいて,本研究に関連した電磁界解析ついての研究発表及び質疑応答を行い,多くの研究者から関心が寄せられた。 提案手法は数値解析的な観点からは完全とは言えないが,上記の研究発表を通じて実用的には十分であるとの印象を持った。そこで,今後,内容を再検討して,実用的な観点を強調した論文を執筆し,採録されることを目指したい。
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