研究課題/領域番号 |
16K00104
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
河野 健二 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (90301118)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NVDIMM / ストレージ / ジャーナリング / 信頼性 |
研究実績の概要 |
本研究の狙いは,比較的新しいメモリ・デバイスである不揮発性 DIMM (NVDIMM) を活用し,レジリエントなストレージ基盤を実現することである.特に,NVDIMM-N という規格の NVDIMM を用いる.従来のファイルシステムやキーバリューストアでは,高いレジリエンスが達成されているとはいえない理由は,高レジリエンスと低遅延アクセスのトレードオフが存在し,性能上の要求からレジリエンスを犠牲にせざるを得ないからである.たとえば,書込み性能を向上させるため,書込み要求毎に synch 処理を行うのではなく,synch 処理を遅延させることが一般的である.また,ジャーナリングによるレジリエンス向上を図る場合でも,メタデータのジャーナリングのみを行うことが一般的であり,システムの異常停止時にデータが失われる可能性が高い. 28 年度には次のような研究を行った.まず,ジャーナリング領域をハードディスクや SSD などの二次記憶上に配置するのではなく,NVDIMM-N 上に配置するようにする.このようにしても,従来のシステムはハードディスクの特性に合わせて最適化されているため,期待したような結果は得られない.これはジャーナル領域への書き込み遅延が低下しても,二次記憶への書き出しがボトルネックとなり,最終的な性能向上は見込めないためである.そこで,ジャーナル領域をさらにカーネル内のページキャッシュと部分的に統合し,相対的にジャーナル領域を大きく見せることによってある程度解決できるということを実験的に示すことができた.それに加え,クラウド環境における仮想化環境との統合,およびマルチテナントのクラウド環境におけるセキュリティを考慮する必要があるため,仮想化環境におけるセキュリティの問題,ビッグデータ収集のための IoT のセキュリティと関連した課題についても部分的に取り組みを行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究計画にある通り,研究初年度である平成 28 年度には,単にジャーナル領域を NVDIMM 上に配置しただけでは性能向上が得られない要因を究明することを目標としていた.研究実績の概要でも述べたとおり,ジャーナル領域への書き込み遅延を低下させても,ジャーナル領域から二次記憶への書き込み遅延は変わらないため,全体的なアクセス遅延を大きく改善できないということがわかった.この問題点を定量的な解析によってある程度明らかにできたという点で,平成 28年度の研究計画はおおむね順調に進展していると考えている. ただし,研究計画を申請した際には,デルタ圧縮とよばれる技術を使ってジャーナル領域を圧縮するだけで問題が解決できるのではないかと考えていた.しかし,実際に得られた解析結果によると,デルタ圧縮を用いれば部分的な問題の解決は計れるかもしれないが,抜本的な問題の解決には至らないのではないかという懸念が生じている.そこでジャーナル領域を部分的にページキャッシュと統合するというアプローチをとってみたものの,その効果もやや限定的であることがわかっている.具体的な解決策を講じるにはもう少し詳しくシステムの挙動を分析する必要があり,その点で不十分な点が残る. なお,当初の研究計画では考慮していなかったものの,当該研究を組み込む対象となるマルチテナント型のクラウド環境が抱えるいくつかの問題に対して予備的な研究をすすめることができた.特にクラウド環境に固有なジャーナリングおよびそのセキュリティに関連した問題についての取り組みを行った.この点は予定以上の進展といえるものの,本来の問題解析にやや不満な点が残ることを差し引いて,トータルには「おおむね順調」であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況においても述べた通り,研究計画はおおむね順調に進展しており,申請時の研究計画から大きな変更などを行う必要はないと考えている.今後の方針として,おおむね,以下の 3 点について取り組んでいく予定である. 第一点目は,NVDIMM を用いてもトータルなアクセス遅延を十分に隠蔽できないという点について,より詳しい原因分析を進めていく予定である.この点についてはある程度の定量的な解析結果が得られているものの,より詳しい分析が必要であると感じている.そのため,カーネルのスケジューリング等にまで踏み込んだより詳しい解析を行っていく予定である.そのような詳細な解析によって次の進むべきステップが見えてくることを期待している. 第二点目は,第一点目で述べた解析結果に基づいて,高信頼・低遅延アクセスのための NVDIMM 活用のための具体的なアルゴリズムの詳細化を行うことである.ここまでの分析とプロトタイピングによりある程度のアルゴリズムの見当はついているものの,完成したシステムとして実現するにはまだ不十分な点が残されている.そのような点の詳細を詰めていく必要がある. 第三点目はやや発展的な研究課題である.本研究の成果はマルチテナントのクラウド環境に組み込んで利用することを想定しているため,仮想化を用いたクラウド環境に特有のストレージ周りの問題について考慮しておく必要がある.研究申請時にはクラウドに絡んだ問題は強く意識していなかったものの,プロトタイピングの過程でいくつかの問題が見えてきており,そうした問題の解決にも積極的に取り組んでいく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,購入予定であった NVDIMM を搭載したサーバ計算機の入手が困難であり,実質上,購入できなかったためである.NVDIMM は最近になって試験出荷が開始された最先端の記憶デバイスである.NVDIMM 単体での出荷はあるものの,NVDIMM を搭載して動作するサーバ計算機は BIOS やオペレーティングシステム・カーネルでの対応等が必要となるため,出荷が遅れがちである.2016 年の夏期には米国で出荷開始という情報を得ていたため,当初の予定ではその購入を計画していたものの,代理店等に問い合わせても国内への出荷状況等がはっきりせず,また納期についても確約を得ることができなかったため,年度内での購入を見送った.
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次年度使用額の使用計画 |
NVDIMM を搭載したサーバ計算機の購入にあてる予定である.28 年度に予定以上の研究発表を行うことができたため,28 年度は大幅に旅費の使用額が予定を超過した.その分,29 年度にまわす金額は減ったものの,高額なサーバ計算機の購入にあてることができれば,29 年度の予算で負担するサーバ計算機購入負担を下げることができ,旅費等の他の目的により有功に研究費を活用することができると考えている.
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