研究実績の概要 |
本研究では負荷分散や転送効率の向上のためネットワークが動的に再構成される環境を想定し,受信側に送信時とは異なる順番でパケットが到着する場合に,送受信端末間で信頼性のある通信を提供するTCPにどのような影響が生じるのか,またどのように通信性能を改善できるかについて取り組んだ. まず初年度に ns3 上にパケット反転を再現する環境を構築し,発生間隔を変更しながら TCP NewReno と TCP CUbic の通信特性を調査した.その結果,TCP Cubic は発生間隔によらずスループット特性が大きく低下することを明らかにした.そこで2, 3 年目ではこの性能低下を改善するため,関連研究で調査した RACK (Recent Acknowledgement) で提案されている再送機能を TCP Cubic に導入することにした.具体的にはパケット再送に重複ACK を用いる (重複ACK を検出する閾値を動的に制御したり重複ACK を待ってからパケットを再送) のではなく,送信側で全てのパケットに対してタイムアウト時間を計算し,ACK パケットを受信するごとにこれまで送信したパケットの内,タイムアウト時間を超過しているパケットは全て再送するとした.タイムアウト時間は RACK で用いられている方式に準拠し,往復伝搬遅延時間と猶予期間から導出した.また,輻輳回避モードでもこのタイムアウト時間を超過した場合は,スロースタートモードから通信を再開するように変更した.ns3 の TCP Cubic に上記の改良を組み込み,シミュレーションにより TCP NewReno,及びオリジナルのTCP Cubic との性能比較を行ったところ,改良した TCP Cubic はパケット反転の発生間隔が往復伝搬遅延時間よりも大きい場合に,比較対象よりも通信性能を改善できることを明らかにした.
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