本研究では複数の人の歩行センシングデータを用いた歩行空間ネットワーク構造生成手法の確立が目的であり,以下の4つのテーマを設けて研究を推進している.(I)建物らしさの概念の体系化,(II)高精度歩行軌跡推定手法の確立,(III)歩行軌跡の統合によるネットワーク構造推定手法の確立,(IV)歩行センシングデータ収集のための参加型センシング基盤の構築. 最終年度となる本年度は(III)を中心に研究を推進した.(III)については,昨年度までに実現した,複数の歩行軌跡同士から共通する部分を発見する手法に基づいて,異なる歩行軌跡の共通部分同士を手がかりとしてボトムアップに歩行軌跡を統合していく手法を提案した. まず共通部分の多い軌跡同士の統合のほうが,共通部分の少ない軌跡同士の統合よりも容易であると考え,共通部分の多い軌跡のペアをリストアップする.次に,最も共通部分の多かったペアを基準として軌跡統合を行っていく.軌跡統合では,共通部分が垂直関係にあたる部分を発見して位置合わせを行い,それ以降は共通部分がしきい値(廊下の幅程度)に収まっていれば平均位置を用いて一本の軌跡に統合し,しきい値を超えていれば別の通路としていく. 屋内センシングコーパス HASC-IPSC に対して提案手法を用いた結果,生成された構造は高い適合率が得られたため,手法の有効性が確認できた.しかし,結果として得られた構造は建物全体の構造よりも小さなものにとどまった.
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