研究課題/領域番号 |
16K00169
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金井 崇 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 准教授 (60312261)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | データ駆動型手法 / 物理法則シミュレーション / 弾性体シミュレーション / 衝突変形 / 部分空間法 / 立体求積法 |
研究実績の概要 |
効率的かつ弾性体シミュレーションに適用可能な新しい方法として,データ駆動法を利用した部分空間により衝突変形の表現力を向上するための研究を行った. 弾性体シミュレーションにおいて,計算を効率化するために用いられる部分空間法(モデル削減法とも呼ばれる)では,高速なシミュレーションが可能となるものの,シミュレーションの表現能力は,全体空間のそれよりもかなり小さくなる.特に,物体に対し衝突が起こる場合,部分空間法でのシミュレーションは,表現力不足により現実的な変形結果を得ることができない. 本手法は,基底ベクトルを追加していくことにより部分空間の表現力を向上させることができるという事実に基づいている.ある衝突の空間にまたがる基底がある場合,全体空間によく似た部分空間で似たような変形を行うことができる.最初に,全体空間の衝突シミュレーションを多数行い,それらを部分空間データベースとして格納することによって,いくつかの特徴基底ベクトルを取得する.ランタイムシミュレーションでは,データベースから適切な基底ベクトルを選択し,衝突の変形に対する部分空間の表現力を向上させている.また,データベースにない箇所での衝突の際に必要な基底ベクトルを生成するための方法を提案した.さらに,効率的な内力計算のための手法に使われる立体求積法 (cubature) の重みの計算方法についても提案した. 様々な実験の結果,本手法により全体空間によく近似する弾性体の衝突変形シミュレーションを行うことができた.実行時にはすべてのプロセスが部分空間で計算される.また,最適計算により求めた立体求積法の重みは,過去の手法において計算された重みよりも正確で効率的であることを実証した.本手法は,特に衝突が起こる場所をユーザーが知っている場合に非常に有用であると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
設定したテーマについて一定の進展が得られたものと考えている.弾性体シミュレーションにおいて,本研究の大テーマであるデータ駆動法の適用が有効であることを示すことができたのが最も大きな進展であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,データ駆動型手法を利用した物理法則アニメーションの高速化,高品質化について取り組む予定である. 特に,境界要素法を用いた脆性破壊シミュレーションについてデータ駆動型手法を適用することを考える.すなわち,機械学習の手法を利用し,脆性破壊シミュレーションを回帰問題として定式化する.この方法では,シミュレーションの次のフレームにおける変形量を物理量を用いた予測によって求める.これにより,BEMの線形システムを計算する必要がなくなり,その結果より高速に破壊形状を生成することができることが期待される. また,ここで作成するデータベースは形状に依存しない汎用性を持つように設計する.これより,シンプルな形状で破壊した結果により構築したデータベースを用いて,より複雑な別の形状の脆性破壊を予測できるようになることが期待される. さらに,他のアプローチとして CNN を利用した脆性破壊形状の予測手法についても検討する.この方法はボリューム空間の中で定義された形状や力を入力とし,破壊面のボリュームデータを出力とするようなネットワークを考え,学習によってネットワークを洗練化させていく.この方法により,シミュレーションよりも精度は低いもののより高速に破壊形状が得られるものと期待している.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 予定していた学会への出席が都合により叶わなかったため,その分の旅費を使用しなかった. (使用計画) 今年度の学会へ出席するための旅費として使用予定である.
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