本研究は,スマートフォンやタブレットPCなどの携帯端末において,個人の身体的特徴あるいは行動的特徴に基づき本人確認を行う生体認証システムの信頼性対策技術について検討することを目的とし,(1)リソースに制約のある端末でのユーザの利便性やシステムの信頼性の維持,(2)利用環境の変化に対する高い頑健性,(3)適切な生体情報の保護機能の具備の三点を柱とする従来にはない携帯端末に適した生体認証システムの実現を目指している. 令和元年度の主要な研究実績は,前年度までに開発した生体認証システムの携帯端末への実装と評価である.特に,令和元年度は,これまで検討してきたコンテキストアウェアネスなマルチファクタ認証システムを,携帯端末であるスマートフォンに実装し,これを実環境で利用する評価実験を行い,実環境における当該システムの有効性を,安全性,利便性,リソース消費の観点から評価して明らかにした.当該年度の研究成果は,学術雑誌への論文の掲載,国際会議での講演,国内の主要な研究会やシンポジウムでの講演という形で外部に発信した. 補助事業期間全体を通じた研究成果としては,コンテキストアウェアネスなマルチファクタ認証システムの提案と携帯端末から取得可能な生体情報に基づく生体ビット列生成手法の提案が主要な成果として挙げられる.これらは,いずれも上記(1)~(3)を柱とする生体認証システムの実現に必要不可欠な基盤技術であり,研究では,机上検討からPC上でのシミュレーション実験を経て,最終的に携帯端末への実装と評価を実施することで,実環境における提案手法の有効性を明らかにした.当該研究の成果は,昨今の生体認証技術のモバイル分野への利用拡大を視野に入れながら,携帯端末におけるより信頼性の高い生体認証技術の確立に必要となる新たなコンセプトと技術を提供している点において,その意義は大きいと考えられる.
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