研究課題/領域番号 |
16K00199
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
河西 哲子 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (50241427)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 注意 / 知覚の体制化 / 個人差 / 脳波 |
研究実績の概要 |
感覚入力後の早い処理段階で生じる知覚の体制化(群化、図地分離など)は、その後の容量限界のある処理段階における単位を形成し、1度に処理できる情報量や速度を決定する機能である。もしこの機能が非定型であったなら、たとえそれが軽微であっても高次の処理過程に広く影響するであろう。これまで私たちの研究室では、知覚の体制化に基づき生じる注意選択過程を、脳波・事象関連電位を用いて可視化し、局所的な空間的注意がまとまり上を強制的に拡散する過程が、刺激提示後300 ms以内に生じる複数の誘発電位に関わることを同定してきた。本研究の目標は、それら知覚の体制化に基づく注意選択過程について、その個人差を生じる要因とメカニズムを多角的に検討することであった。 本年度は、前年度に検討した新たな注意課題時のデータを増やし、事象関連電位を算出するとともに一部のデータについて時間周波数解析を行い、発達障害特性や状態に関わる質問紙データや半球機能に関わる行動データとの関連を探索した。その結果、計画の見直しが必要となる重要な知見が得られた。精神疾患を対象とする研究で多く用いられているカニッツァ図形の統合処理に関わる初期の誘発反応は、時間軸上の注意配分を媒介して、健常者の自閉症傾向、主観的覚醒や半球機能の個人差によって変動することが見出された。このことは、知覚の体制化処理の個人差が健常者から臨床群まで連続的に存在する可能性を示唆するとともに、一般に意識以前に注意を要さず生じると考えられている知覚の体制化処理が、時間的注意に依存し、さらにそこに個人の特性や状態が関わることを示す。これまで知覚の体制化研究において時間的注意は考慮されてこなかったが、それが強力な修飾要因であることが明らかにされた。そこで次年度では刺激の時間文脈により注目した実験計画へと変更する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度では眼球運動制御による負荷やその個人差が関わらない実験課題として、時間的注意課題および分割的注意課題を新たに検討した。本年度はそのうち時間的注意課題を優先し、課題中の行動および脳波データに加えて、質問紙等による個人の状態と特性に関するデータを、大学院生と学部生の協力を得て、個人差の探索的検討が可能な一定数取得した。それらデータについて現在までに事象関連電位、専門家の助言を得て事象関連スペクトラル摂動、および試行間コヒーレンスを算出し、各指標間の関連を探索した。 時間的注意課題データの解析結果として、カニッツァ刺激とその統制刺激の差として定義される知覚の体制化効果を、後頭側頭部で優勢な視覚誘発電位P1およびN1の頂点潜時の差、および刺激提示後70-100 msに後頭部で生じる30-40Hzの振動同期として観察し、それらへの時間的規則性の影響が、自閉症傾向、主観的覚醒度、線分2等分線課題で測定される右半球優位性および半球間結合と関連することを同定した。 一方分割的注意課題では、色と形の類似性による群化に関わる皮質処理過程を調べた。このパラダイムでは刺激のより厳密な物理的統制が可能であり、物理的に離れた要素間の統合を要するためより個人差が生じやすいことが予想される。現在までに群化に関わる行動反応、事象関連電位において色と形で異なる潜時の群化効果を同定したが、時間的注意を操作しておらず、個人差を検討するまでのデータ数も取得していない。 以上のように、カニッツァ図形を用いて予想しなかった重要な変数と関わる個人差が見出されたが、一方で特徴類似性による群化に関してはまだ十分な検討がなされていない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
上記から、個人の特性や状態による時間的注意の個人差が、知覚の体制化に関わる早い段階の処理過程を変えるという仮説が成立する。次年度はこの仮説を検証するために主に特徴類似性による群化に着目した図形を用いて、時間的注意の影響についてより踏み込んだ検討を行う。まずは行動実験において刺激間間隔をシステマティックに操作したパイロットスタディで最適な時間条件を抽出し、次に課題中の行動および脳波と、特性および状態に関する各種質問紙および行動データを、個人差の探索が可能な一定数取得する。より緻密な神経メカニズムを検討するための生理変数として、安静時の自発脳波における優勢な周波数帯域とそのパワー値、注意課題時の事象関連スペクトラル摂動、試行間コヒーレンス、およびチャンネル間コヒーレンスを算出する。これらデータ取得・解析は学生の協力を得て行う。
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