研究実績の概要 |
知覚的群化や図地分離などの知覚の体制化の産物である「物体」は、注意やワーキングメモリの単位となる。このような早い処理段階に個人差は、高次の認知機能の広範に影響するだろう。本研究は、脳活動の高い時間解像度を持つ脳波・事象関連電位(event-related potential)を指標として、ヒトの視覚皮質階層における知覚の体制化に基づく注意選択過程を可視化し、その個人差を解明することを目的とした。 最終年度である本年度は、分割的注意法と時間的注意パラダイムにおいて課題非関連な知覚的群化要因を操作した実験について昨年度の追加データの分析を行うとともに、これまでのデータ全体(行動反応、各ERP成分、FFT、時間周波数解析における試行間コヒーレンス)と、健常者において質問紙で測定された発達障害傾向との関連に関する整理を行った。それら結果は概して、時間軸方向における注意配分の違いが知覚の体制化における個人差の基盤にあることを示唆するものであった。このことは、知覚処理において個人差が生じる機序に対して新たな視点を提供するものである。具体的には、主に以下のような知見が得られ、学術論文としての投稿を準備中であり、一部については学会発表を行った。 1.自閉スペクトラム症(autism-spectrum disorder, ASD)の傾向は時間的注意の低下を介して初期視覚皮質における知覚的群化を弱める。 2.注意欠如・多動症(attention-deficit hyperactivity disorder, ADHD)の傾向は、とくに不注意に関連して初期視覚皮質における顕著性検出を弱める。 3. ADHD傾向のうち衝動性は、時間的注意の低下とそれによる知覚の体制化の減少に関わるが、一方で持続的注意の低下は知覚の体制化によるボトムアップの注意に補われる。
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