研究課題/領域番号 |
16K00200
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川端 康弘 北海道大学, 文学研究科, 教授 (30260392)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 色彩認知 / 熟達性 / 個人差 / 知覚学習 / 色識別力 |
研究実績の概要 |
色認知の熟達性を研究するには色覚の変化しない特性に注目するだけでなく、可塑性の高い高次視覚系における色処理過程のダイナミクスを考慮する必要がある。本研究は色の特性に適した大局的な時空間配置を用いて、高次色彩認知の習熟度や個人差を計る心理学的実験や調査を行い、高次色彩認知における熟達の過程を明確にすることを目的としている。また人間の一般的活動に通じる高次色処理過程のダイナミックで融通性の高い特性を、これまで硬直的と捉えられてきた色彩認知の多様な側面で明らかにする。 平成28年度は、高次視覚における色の寄与を明確にするために、100hueテストを用いた性差を含む個人差の検討を行うためのデータを122名(男性60名、女性62名)の実験参加者より得た。まだ十分なデータではないが、色覚障害者だけでなく健常者においても色識別力にはかなりの個人差がみられる。このテストでは中彩度の色チップを識別するときに具体的に何をイメージするかが重要である。女性の多くは色チップに対して化粧品サンプルをイメージしたと報告しており、イメージできた参加者の識別成績はそうでないものより高く、化粧品選択の経験の多寡が識別力に影響したのかもしれない。男性の被験者においても顔料や画材をイメージしたと報告した被験者は一定数いて、彼らの成績は概ね良好であった。色チップを日常生活の体験で扱った具体的な物やイメージと結びつけることができる能力は100hueで測られる識別力を向上させる。色のイメージと色識別力にはある程度の関連性があるようである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた実験において、ほぼ予定通りの人数の実験参加者に課題を行ってもらうことができた。また必要な分析についても個々人については順調に進んでおり、全体の集計作業も行える段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、前年度の実験・調査データをさらに増やすため、数百人規模の被験者に対して実験・調査を行う。この実験・調査は1名の被験者が1度だけ100hueテストを受けるが、さらに知覚学習による熟達の過程を検討するため、長期にわたる色識別力の熟達過程の実験を行う。ここでの参加者は100hueテストを数ヶ月にわたり15回以上繰り返し受ける。さらに色チップの裏面に表記された色番号当て課題も併せて行う。100hueテストは、いわば、グラデーション中の適切な順番を全体との比較で構築する作業であるが、色番号当て課題は任意の色チップの絶対値を推定するものでありかなり難しい課題である。ただ100hueテストを使ったこのような課題は、厳密な色見本を用いる仕事の職能訓練として一般的に行われており、習熟することによってその精度は増していくはずである。100hueテストを計10回程度繰り返した数名の参加者の場合、1回目では平均74程度あった総エラー値が5回目以降20を下回り、10回目では5以下になった。一方色番号当て課題のエラー減少傾向はこの学習レベルでもまだ続く。最初200程度あったこの課題の総エラー値は10回の繰り返しで140程度まで減少したが、0まではまだかなりあり、繰り返すことで総エラー値はまだ減少しそうである。100hueテストがほぼ完全にこなせる学習レベルでも、色番号当て課題ではまだ学習の進捗の余地を残している。今後色番号当て課題の成績がさらに向上するか、本研究では50名程度に参加者を増やし、繰り返し回数も増やして成績の推移を検討する。また一部の参加者については熟達過程の眼球運動計測や脳機能画像データを収集する
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次年度使用額が生じた理由 |
当初昨年度3月中に行う予定だった一部の実験を本年度4月に行うこととし、必要と見積もった人件費・謝金を昨年度使用しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
4月中旬に実験を実施して、予算を執行する予定である。
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