研究課題
空間の手がかりは変化が激しいため,その変化に対応できるよう,冗長な複数の手がかりをバックアップとして学習することが重要である。本研究では,ヒトとハトを対象とした実空間での探索実験を実施し,冗長な,空間全体と空間内部の両手がかりを学習して,探索に利用するか調べ,ヒトとハトとを比較することで,ハトの優れた帰巣能力を支える空間探索方略を明らかにすることを目的としている。平成28年度は,複数の空間手がかりが冗長に一つのゴールを指し示す場面でハトにゴール探索を訓練し,ハトがそれら複数の手がかりの利用を学習するか調べた。よりグローバルな手がかりとして2つの,各々方向手がかりを持たない幾何学図形(配置手がかり)を呈示し,これに加えて,ローカルベクトルとして機能する,方向性を持った幾何学図形1つ(ベクトル手がかり)を同時に呈示した。配置手がかりとベクトル手がかりは,互いに独立に,試行ごとに絶対位置と絶対方向を変化させたが,各手がかりはいずれも同一のゴール位置を指し示しており,そこを選択することでハトが食物報酬を得ることができた。それぞれの手がかりを単独で呈示したり,互いに矛盾するように呈示されたテストの結果から,ハトが両手がかりを分離するのではなく,両手がかりを統合した,より曖昧な配置情報を手がかりとしていることが示された。空間認知の基礎となる視覚的知覚・注意に関する研究も進展した。曖昧な視覚情報を補完する認知機能については,曖昧な情報呈示法による視覚パターン弁別をハトに訓練したところ,高正答率に達し,また新奇事例による般化テストでも正答率が維持されたことから,ハトの補完能力が示唆された。空間的な注意の実験では,ランドマークにもなり得る空間内のオブジェクトが,互いに別々の色であるとき,それぞれのオブジェクトが注意を捕捉することが示された。
2: おおむね順調に進展している
複数の空間手がかりが冗長に一つのゴールを指し示す場面でハトにゴール探索を訓練し,ハトがそれら複数の手がかりの利用を学習するか調べた実験では,ハトが両手がかりを分離するのではなく,両手がかりを統合した,より曖昧な配置情報を手がかりとしていることが示された。ヒトとハトを対象とした実空間での探索実験を実施し,冗長な,空間全体と空間内部の両手がかりを学習して,探索に利用するか調べ,ハトの優れた帰巣能力を支える空間探索方略を明らかにすることを目的とした本研究において,この知見は大きな成果と言える。これに加え,空間認知の基礎となる視覚的知覚に関する研究においても,ハトの補完能力が示唆され,また空間的注意の研究においても,ハトの注意を捕捉するオブジェクトの要件が明らかになり,平成29年度以降の空間認知研究における大きな手がかりを得ることができた。
平成28年度には,ハトを用いて実施した実験が順調に進展し,複数の手がかりを各々分離するのではなく,統合した配置情報を手がかりとしていることが明らかになった。今後は引き続き,別の場面,すなわち,空間のグローバルな手がかりとローカルな手がかりが冗長にゴールを指し示す場面で,各々の手がかりが統合されることなく,独立に学習され,また利用されることがあるか引き続き検討する。また,同様の実験をヒトを被験者として行い,種間比較することで,ハトとヒトの空間探索方略の違いを明らかにし,ハトがヒトと分岐した後に獲得した,優れた帰巣能力を支える空間探索方略を検討していく。また,冗長な空間手がかりの学習が探索パフォーマンス一般の向上を促進しているか調べるため,帰巣能力に劣るキュウカンチョウをハトと同様の方法で調べ,ハトの優れた帰巣能力が冗長な空間手がかりの学習に支えられているものか検討する。
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