研究課題/領域番号 |
16K00203
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
牛谷 智一 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (20400806)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 比較認知 / 種間比較 / 空間認知 / 冗長性 / 学習 / ハト / ヒト |
研究実績の概要 |
本研究では,ヒトとハトとを比較することで,ハトの優れた帰巣能力を支える空間探索方略を明らかにすることを目的としている。特に,空間の手がかりは変化が激しいため,その変化に対応できるよう,冗長な複数の手がかりをバックアップとして学習することが重要である。ヒトとハトを対象としたゴール探索実験を実施し,冗長な,空間全体と空間内部の両手がかりを学習して,探索に利用するか調べた。 平成29年度は,昨年度に引き続き,複数の空間手がかりが冗長に1つのゴールを指し示す場面でハトにゴール探索を訓練し,ハトがそれら複数の手がかりの利用を学習するか調べた。実空間における探索実験とコンピュータ画面上に模した空間における探索実験を同時に進めることで,相補的にデータを活かすことができ,研究をより円滑に進展させることができる。訓練の最初は,ゴールの位置を直接指し示す手がかり(ビーコン手がかり)を呈示し,それを徐々に除去していくフェードアウト手続きを採用したが,コンピュータ画面における探索実験においては,ビーコン手がかりの急速なフェードアウトが,ハトの反応の正確性を急激に低下させることがわかった。つまり,冗長な手がかりの学習には,ある程度の時間が必要であり,これは先行研究の場所学習の知見と一致する。また,ヒトのゴール探索実験では,実空間とコンピュータ画面上に模した空間に加え,頭部装着ディスプレイを用いた仮想現実空間での実験を行ったが,これまでの実験と同様,ヒトがランドマーク配置の配置的センス(configural sense)を学習しない結果が再現され,頭部装着ディスプレイ使用の実験の可能性が広がった。また,空間認知の基礎となる空間的注意に関する研究についても同時に調べた。ハトの視覚探索における文脈効果による探索の促進が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き,複数の空間手がかりが冗長に1つのゴールを指し示す場面でハトにゴール探索を訓練し,ハトがそれら複数の手がかりの利用を学習するか調べた実験は,実空間における実験もコンピュータ画面上に模した空間における実験も,同時並行に進んでいる。後者の実験では,訓練途上の,ゴールを直接指し示す手がかりにハトが強く依存するため,急激なフェードアウトが反応の不正確性を増大させることがわかった。これは,冗長な空間手がかりの利用における,非顕著な手がかりの学習に時間がかかる可能性を示唆しており,ハトの優れた帰巣能力を支える空間探索方略を明らかにすることを目的とした本研究において,この知見は大きな成果と言える。視覚探索課題における文脈効果について調べた実験では,ヒトと同様にハトは,繰り返し出現する妨害刺激配置を記憶し,その際に標的刺激の探索速度が上がることが示された。これは,ゴール探索課題においても,背景となる課題無関連情報にハトが注意し記憶する可能性を示唆しており,平成30年度以降の空間認知研究における大きな手がかりを得ることができた。ただし,セットサイズの小さな探索画面でのみ文脈効果が見られ,かつ個体差も大きく,今後のさらなる検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2年間の,ハトを用いて実施した実験については,一見矛盾するような結果が得られてきた。すなわち,ゴール探索課題では,冗長に1つのゴールを指し示す空間手がかりのうち,ハトは,顕著な手がかりに依存し,顕著な手がかりが除去されると,探索反応の正確性が低下した。一方,現在進行中の,視覚探索における文脈効果を調べた実験では,個体差こそあるものの,課題そのものに関連しない背景情報を使って,早く標的刺激にたどり着くことが示唆された。この違いを生み出したのは,ゴールや標識の探索に直結する手がかりの顕著性の違いが挙げられる。今年度は,この仮説を実証すべく,ゴール探索課題,視覚探索課題の両方で手がかりの呈示条件を変化させた状況下でハトをテストし,顕著性操作の影響を直接明らかにしていく。さらには,ヒトの比較実験をさらに進め,ハトとヒト,それぞれの空間認識の性質を詳細まで明らかにする。また,これまでの成果を国際会議等で速やかに公開していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議に出席しなかったため未使用額が生じた。平成30年度には,国際会議に出席し,成果を発表する予定である。
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