本研究では,ヒトとハトとを比較することで,ハトの優れた帰巣能力を支える空間探索方略を明らかにすることを目的としている。 平成30年度は,アリーナにゴール候補となる餌入れを並べ,そのうちに1つに餌を隠し,その餌を探すようハトを訓練した。アリーナ内にはランドマークが2つおかれ,ゴールを指し示す手がかりになっていた。ハトは,餌が見えないときにも,ランドマークを使ってゴールを正しく探索できるようになった。ランドマークの方向を配置と矛盾するように置き,冗長な空間手がかりのどれをどのように学習し利用しているか調べるテストを実施した。ハトは,ヒトよりも,ランドマークの配置に従う探索行動が見られ,コンピュータ画面上でシミュレートされた同様の探索課題と類似した結果が得られた。ハトは,ヒトよりもランドマークの配置の詳細を学習している可能性が示された。 一方,このゴール探索課題の場面を撮影し,現実的な写真をコンピュータ画面上に呈示して画面上のゴールに反応させる課題をハトに訓練した。ハトは画面上のゴールに正しく反応することを学習できた。しかし,新奇角度から同場面を撮影した写真を使ったテストにおいて,ハトはゴール以外の場所に多く反応した。訓練と同じ写真で,ランドマークなど手がかりを一部除去したテストでは,正答率があまり下がらなかったことから,ハトは現実的な写真をむしろ2次元的に解釈し,ゴール探索課題として認識していない可能性が示唆された。 その他,視覚探索における文脈手がかり効果を調べ,ハトの空間探索能力を支える空間的注意の性質を明らかにした。また,空間手がかりを含む視覚刺激を記憶する能力を測る課題を実施した。並行して,仮想現実技術を使って,ヒトの空間的認知能力(空間的注意,奥行き知覚)を測り,種間比較の基礎データを取得した。
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