研究課題/領域番号 |
16K00204
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
佐藤 俊治 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (50333844)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 輪郭所有権 / border ownership / MT細胞 / 錯視 / 視覚計算論 / 立体視 |
研究実績の概要 |
図地分離にかかわる視覚計算理論(昨年度の研究成果)の妥当性を評価し,論文としてまとめた.具体的には輪郭所有権問題(BO問題)と物体重なり順序計算問題は,電磁気学のE=∇φ(Eは輪郭所有権方向,φは重なり順序を示す量)として定式化できることを見出し,これらを解く神経回路網モデルを演繹的に導出した.本年度は昨年度の研究成果をさらに発展させ,多解像度解析の導入や既存研究との比較に力点を置いた.これまでにもBO問題を解く神経回路網モデルが提案されてきたが,いずれのモデルも本研究で導出したモデルに包含されることが分かった.すなわち,これまで異なるモデルとして扱われてきた既存モデルは,本モデルによって統一的に記述できることが示された.同時に,電気生理学実験結果と本モデルとの整合性を評価し,定性的に無矛盾であることを示した.これらの研究成果は,Neural Networks 誌に投稿,受理,掲載されている. また,画像の動きを符号化するMT細胞モデルの妥当性を評価するために,新たな研究手段を提案した.具体的には錯視の予測と錯視画像の生成である.錯視画像は通常,研究者がこれまでの知見を基にして作成されることが多い.一方,MT細胞モデルはヒトの視覚をシミュレーションすることから,モデル出力を観察することで画像が錯視画像か否かを予測することができるはずである.そこで本年度は約1600万種の入力画像に対するモデル予測(シミュレーション)を実行し,ヒトの知覚と整合するか否かを評価した.モデル予測と心理実験結果は高い相関を示すことが分かった.これらの研究成果は,Neural Computing and Applications 誌に投稿,受理,掲載されている. その他,両眼立体視にかかわる視覚計算理論とその評価を行い,Neural Networks 誌に投稿し,受理,掲載されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経生理学的観点,ならびに心理学的観点から提案モデルの評価を行い,いずれも期待していた結果が得られた.また,学術論文として3件が受理・掲載されたため,この点においても順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
大別すると3種の視覚計算理論とその数理モデルを構築した.具体的には(1) 輪郭所有権問題と重なり順序知覚,(2) 物体の動きを計算するMT細胞モデル,(3) 両眼立体視モデルである.これらは独立したモデルではなく,「画像の微分」を共通した数理的基盤として構築されている.このことは,複数の数理モデルが数理的にも実装的にも結合できる可能性を示唆している.そこで今後は数理モデルの融合を目的の一つとしたい. また,本研究で構築したモデルはいずれも,視覚機能の新しい数理的解釈に従って構築されている.研究課題である「中次視覚機能の定式化と新しい機能的解釈による視覚計算理論」をさらに推し進めるべく,複雑な視覚の性質や機能を新しい解釈に基づいて記述したり,説明したりすることを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は論文発表にエフォートを費やしたため,網膜像シミュレータの開発が完了しなかった.
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