図地分離にかかわる新たな視覚計算理論を構築し,Neural Networks 誌の論文としてまとめた.具体的には輪郭所有権問題(BO問題)と物体重なり順序計算問題は,電磁気学のE=∇φ(Eは輪郭所有権方向,φは重なり順序を示す量)として定式化できることを見出し,これらを解く神経回路網モデルを演繹的に導出した.これまでにもBO問題を解く神経回路網モデルが提案されてきたが,いずれのモデルも本研究で導出したモデルに包含されることが分かった.同時に,電気生理学実験結果と本モデルとの整合性を評価し,定性的に無矛盾であることを示した. また,画像の動きを符号化するMT細胞モデルの妥当性を評価するために,新たな研究手段を提案した.具体的には錯視の予測と錯視画像の生成である.錯視画像は通常,研究者がこれまでの知見を基にして作成されることが多い.一方,MT細胞モデルはヒトの視覚をシミュレーションすることから,モデル出力を観察することで画像が錯視画像か否かを予測することができるはずである.そこで約1600万種の入力画像に対するモデル予測(シミュレーション)を実行し,モデル予測はヒトの知覚特性と高い相関を示すことが分かった.これらの研究成果を Neural Computing and Applications 誌の論文としてまとめた. 立体・奥行知覚に関する数理モデル研究も行った.奥行き変化は両眼視差量で計算され得るが,白紙などにみられる均一領域内では視差量を原理的に計算できない.一方,ヒト視覚系では均一領域内では平坦な面を知覚することが知られている.そこでヒト視覚系の特性を説明しうる立体奥行き知覚を,平坦性を示すガウス曲率の最小化問題として定式化した. 以上,主に3種の研究をおこなったが,いずれも微分量に基づく動画像符号化と最適化問題によって視覚中低次機能を記述できることを示している.
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