研究課題/領域番号 |
16K00206
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮地 重弘 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (60392354)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 運動リズム / ドーパミン / サル |
研究実績の概要 |
2頭のサルに、連続ボタン押し課題を訓練し、課題遂行中の行動データを解析した。課題には、800ミリ秒の一定間隔で点滅するボタンを、その点灯に合わせて押す「リズミック条件」と、800,1200,1600msの間隔が擬似ランダムに組み合わされ、タイミングの予想できない刺激に反応してボタンを押す「ランダム条件」の2条件がある。2頭とも、リズミック条件においては平均反応時間が100ms以下となり、刺激に先行するボタン押しもしばしば見られた。リズミック条件の訓練を十分に行った後では、ランダム条件においても800ミリ秒の刺激間隔が1~4回繰り返されると、繰り返し回数が増えるに従って反応時間が有意に短縮した。また、800ミリ秒繰り返された後に刺激間隔が1200ミリ秒に延長すると、しばしば刺激提示前に誤ってボタンを押した。(このようなボタン押しには、報酬は与えられない。)また、2頭目のサルにおいて、初めランダム条件のみの訓練を1ヶ月間行ったが、上記のようなリズムに乗ったと考えられる反応時間の短縮は見られなかった。そこで1頭目のサルのデータを改めて解析したところ、やはりリズミック課題の訓練前にはランダム課題においてたまたまリズミカルに刺激が提示されても、反応時間の短縮は見られなかった。これは、刺激のリズムによってすでに学習した運動リズムが誘導されたと考えられる。 次に、1頭のサルにドーパミンD2受容体の作動薬クインピロール、阻害薬ハロペリドールを全身投与し、上記ボタン押し課題遂行への影響を解析した。クインピロール投与後は、リズミック課題でのボタン押し間隔が有意に延長した。ランダム課題での反応時間に変化はなかった。ハロペリドール投与後は、反応時間は延長したが、ボタン押し間隔の延長は見られなかった。以上の結果は、ドーパミンが運動リズム制御に重要な役割を果たすことを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、当初の予定ではドーパミンD2およびD1受容体の作動薬、阻害薬の全身投与を行う予定であったが、D1受容体の作動薬、阻害薬を用いた実験を行うには至らなかった。理由は2つある。第1に、ランダム課題における運動リズムの引き込みが、それに先立つ運動リズムの学習に依存するという興味深いデータが得られたため、それを2頭のサルで検証するための追加の解析を行ったこと。第2に、ドーパミン作動薬、阻害薬を用いた実験で、薬物の濃度、投与のタイミング等の指摘条件の検討、及び、その効果を記述するのにふさわしいパラメータ、データ解析手法の検討に時間を要したことである。すでにデータ解析については相当の知見が得られたので、今後はスムーズに実験が進められると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画段階では、薬物の全身投与では効果が見られない可能性も考えられたが、全身投与でも、解析するパラメータを適切に選択することによって十分に効果が確認できた。これまでの行動データ、薬物投与の結果をもとに、解析するパラメータを絞り、速やかに以後の実験を進めたい。ただし、全身投与では脳内の作用部位を特定できない。各種薬物の全身投与の結果が揃い次第、脳内微量投与の実験に移りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
1)モンキーチェアの不具合改善のため部品の交換を予定していたが、他の修繕方法についても検討することにしたため。 2)実施予定だったD1受容体作動薬、阻害薬の投与実験が行えなかったため、実験に使用する薬品、消耗品が必要なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
モンキーチェアについては、修繕方法、代替品の使用の可能性等を検討する。 薬品、消耗品類については、当該実験を新年度に実施するため、新たに購入する。
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