向網膜系の機能的意義を解明するため多角的な研究を行い,いくつかの知見を得た.特に重要と思われる点は以下の2点である. 1)一側の向網膜神経核内の向網膜ニューロンをGABA-A受容体作動薬であるムシモールの微量注入によって不活性化すると,注入対側に呈示された標的刺激の識別能が低下するだけでなく,注入対側に呈示された刺激の検出能も低下することが明らかとなった.このように向網膜系が網膜に送る向網膜信号は,標的識別能だけではなく刺激検出能の改善に寄与していることが分かった.さらにこれら向網膜信号による標的検出能の改善は,標的への正しく素早い定位行動に寄与していることも明らかとなった. 2)向網膜神経核への電気刺激やグルタミン酸の微量注入によって向網膜ニューロンを活性化すると,プロテインキナーゼC (PKC)免疫陽性の双極細胞 (PKC-BC)において,転写因子であるCREBのリン酸化が見られることを見出した.このことは,向網膜系の3次ニューロンであるIO標的細胞の制御対象がPKC-BCであることを強く示唆する.1)で示された向網膜信号による標的検出能の改善は,IO標的細胞によるPKC-BCと網膜神経節細胞 (RGC)間のシナプス伝達のシナプス前促通によっている可能性が高まった.
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