研究課題/領域番号 |
16K00217
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
守屋 三千代 創価大学, 文学部, 教授 (30230163)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナル表現 / 認知言語学 / 通言語研究 / ナル相当動詞 / ナル的言語 / スル的言語 |
研究実績の概要 |
今年度は新型コロナウィルス感染拡大に伴い、計画通りに研究会を実施することが難しくなり、最終年度を総括する総会の開催もできなかった。ただ、総会の準備に相当する研究発表会は実施できたため、これまでのナル表現研究会の足跡を確認するとともに、今後の課題を具体的に捉えることができた。 一番の収穫は、「ナル表現」の通言語的研究を研究協力者とともにこのテーマの重要性を再確認し、書籍にまとめる方向で検討に入るための基準作りが進んだことである。すなわち、1.「ナル表現」専用の「ナル」相当動詞は、中国語や英語、およびロマンス系言語やロシア語では観察されにくいが、広くユーラシアの多くの言語では観察される、2.そのほぼ全てにおいて、変化の意味を表す用法が見られ、この点で日本語との共通性が観察される。3.中国語・韓国/朝鮮語や日本語では新事物の出来を表す「ナル表現」が見られないのに対し、4.これら以外の多くの「ナル」相当動詞を持つ言語では、共通して出来の表現が観察される。5.ロマンス系言語であるフランス語では再帰代名詞を伴う「スル的表現」で表現される箇所が、ゲルマン系言語であるドイツ語や英語では「ナル的表現」が現れるという対立が見られる。などの観点がいくつか得られた。 従来、日本では「スル」と「ナル」の対立は英語と日本語の対立に即して主張されてきたが、日本語の「ナル」および「ナル表現」は、世界の「ナル」相当動詞や「ナル表現」の特徴から改めて見直すと、むしろ例外的であり、そのため日本語を「ナル的言語」と呼ぶことは果たして適切と言えるか、他の多くの「ナル的言語」を否定することにつながらないかが懸念される。これと同時に、英語は「スル的言語」としての特徴を備えているが、ロマンス系言語と対照すると、「ナル的表現」を志向する傾向も観察され、ここにおいて「『スル』と『ナル』の言語学」全体を再考する必要性が見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
総会を開催して、研究の総括をすることを目指してきたが、元々研究協力者が全員の集まることが可能な日程が年明けから春休みに限られていた。しかしながら、この時期は新型コロナウィルス感染拡大の時期に重なったため、総会を開く準備にあたる研究会は、一度の開催にとどまり、二度目の研究会、および総会は開催そのものが難しくなった。また、当時は今ほどにはZoomの普及が進んでおらず、オンラインによる研究会も進めにくい状況にあった。その結果、意見を交換し、研究を深めることが難しくなり、研究の進捗が大幅に遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に実施できなかった予定を実施に移し、研究の総括を行うとともに、書籍刊行に向けた準備を進める。 具体的には、新型コロナウィルス感染拡大の状況をにらみ合わせながら、可能ならば夏休み中に、コアとなる研究協力者とともにZoomによる研究会を開き、これまでの研究の確認と共有を行うとともに、既に決定している総会のプログラムについて、その方向で良いか再検討を行う。 基本的な研究の進め方の確認ができ次第、総会の開催を目指し、協力者全員とこれまでの研究成果および今後の研究発表の方向性について、メールおよびZoomでの検討に入る。 新型コロナウィルス感染の危険性が十分に抑えられていると判断された場合は、年明けから春休み中に総会を開き、研究成果と今後の課題を共有し、かつ個々の研究論文の主眼を確認し合い、最終的に研究会全体で主張すべきことをブラッシュアップして、個々の論文執筆に反映するよう図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
今期は新型コロナウィルス感染拡大に伴い、研究会および総括のための総会を開催することが難しくなったことと、本研究の認知言語学および通言語学における重要性を鑑み、本研究の計画実施を次年度に延期した。 令和2年度は、ナル表現研究会の総会および研究発表を行うとともに、今後の書籍刊行に向けた会議と研究発表会を行う予定である。総会までの期間は、Zoom等による研究会を実施し、出来る限り研究成果の共有と研究のさらなる進捗を図る。 新型コロナウィルス感染拡大の状況が抑えられた場合は、研究協力者の在住する地域のほぼ中間に相当する、静岡県等で総会を開催したいと考える。 主な書籍等、および機器は購入済みであり、十分用意された状況にあるため、主な使用計画は旅費と翻訳等の作業を行う人件費に充てる予定である。
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