本研究の主目的は、正立/倒立/横斜め30°/横斜め60°/上30°/下30°に回転させた平均顔表情を用いて表情認知ネットワークを個別に構築し、それらのネットワークトポロジにおけるスモールワールド属性を確認することであった。3年間に渡る研究計画においては、所属大学の校務の影響から研究そのものが大きく滞った時期があった。それにもかかわらず、計画通り最終年度において全ての実験実施が完了し、データ解析も終了した。 研究結果について俯瞰する。まず、最も大きな成果は、顔表情画像を正立・倒立・横斜め30°と60°、および上下30°に回転させた6条件で表情認知のネットワークを構築したところ、全ての条件においてネットワークのトポロジはスモールワールド属性を有することが確認できたことであった。また、倒立表情の認知ネットワークにおけるネットワークの直径が正立のそれと比較して1だけ大きくなり、研究開始時の予測と一致した。しかしながら、横斜め30°と60°および上下30°に回転させた条件における認知ネットワークでは上30°で直径が1だけ大きくなったことを除き、クラスタ係数や平均距離等のネットワーク統計量に大きな差は認められなかった。 これら一連の結果が示していることは、顔をどのように回転しても、そのネットワークトポロジに顕著でかつ大きな変化は見られないということだ。これは我々がどのような角度から表情を観察しても、読み取る感情の正確さに大きな違いがないことと対応する。言い換えると、我々はある一定の規則性に従って様々な角度回転した表情を観察して、そこから感情を正確に読み取っているということである。 本研究のように、3次元平均顔画像を用いて表情認知、およびその認知ネットワークを検証した研究は他に存在せず、新たな手法によってこれまでの研究知見と一致する結果が得られたことは非常に意義が大きいと考えている。
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