大脳皮質の層構造形成のメカニズムについての研究はDab1などの条件付きノックアウトマウスの解析を利用して行っているが、その結果を情報学的研究へ還元し、その結果をさらに利用してモデル動物における表現型の解釈を行うという双方向性の研究を目指している。大脳皮質層構造の機能を考える上で、大脳皮質の構造を参考にして設計されているディープラーニングは非常に有用であるため、層構造を反映したネットワークモデルの検証プラットフォームとして転移学習による比較的困難な画像判別課題を正常組織に対するDab1ノックアウト大脳皮質を用いて設計する試みを行い、公開されている学習済みディープラーニングネットワークの一つであるGoogLeNetを利用した転移学習系によってこれらがある程度判別可能ではあるが学習に多数の試行を要し最終的に十分な精度は達成できないことを確認した。この成果は2019年3月27日開催の第124回日本解剖学会総会全国学術集会において研究代表者を筆頭発表者とする「Deep LearningによるDab1ノックアウトマウス大脳皮質の判別―事前学習済みネットワークへの転移学習」として発表した。また聴覚における同ノックアウト動物および同一遺伝子の欠損が見られるreelerマウスでの解剖学的解析も続けられており、その成果は同学会において谷浦仁美他「reelerマウス脳の聴覚伝導路における髄鞘構築異常」として報告された。これらの研究により、大脳皮質層構造の特徴を模したニューロネットワークの設計およびパフォーマンスの検証が実現可能になり、当初の解剖学と情報学を結びつけるというアイデアに対して具体的な道筋をつけることができた。この研究はディープラーニングにおける普遍的な技術革新をもたらす可能性がある。
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