研究課題/領域番号 |
16K00255
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研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
牧 勝弘 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 教授 (50447033)
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研究分担者 |
石川 智治 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90343186)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 音色 / 空間放射特性 / 時間揺らぎ / 熟練度 / ストラディバリウス / 楽器のランク |
研究実績の概要 |
昨年度までの研究により、ストラディバリウスは、楽曲演奏中に他のバイオリンとは異なる固有の放射方向の揺らぎの性質を有することが示された。そこで本年度は、この放射の時間揺らぎの特性が、音の聴感に影響を与えるのかどうかを調べた。具体的には、42チャンネル球形スピーカを利用して、全てのチャンネルのスピーカユニットを同じ音源で駆動することにより放射の時間揺らぎが全く生じない条件と、同一音源を利用するものの特定のチャネルの音を大きく鳴らし、それを移動させることで放射の時間揺らぎを人工的に作り出す条件を設け、その「リアル感」への影響を調べた。その結果、音が同じ大きさであったとしても、揺らぎを加えることで統計的有意にリアル感が向上することが示された。この結果は、ストラディバリウスの音響的特徴の一つである放射の時間揺らぎが、その音色に影響を与えることを示している。 昨年度明らかにしたストラディバリウスと他のバイオリンとの音響的特徴の違いは、全て極めて熟練度の高い奏者が演奏した際のデータに基づいたものであった。ここで、ヒトが演奏した場合、楽器が同じであっても、その熟練度によって放射特性が変わる可能性が考えられる。そこで、奏者の熟練度によってバイオリン音の放射特性がどの程度変化するのかを次に調べた。その結果、アマチュア、国内で活動するプロ、世界的に活躍する著名なプロの順で練度が上がるにつれて、特に1kHz以下の放射指向性が顕著に変化し、練度が上がるにつれて指向性が強くなることが明らかになった。また、世界的に活躍する著名なプロであれば、その演奏技術により低いランクの楽器であっても高価な楽器の放射特性にかなり近づけることができることも分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにストラディバリウスの持ついくつかの固有の音響的特徴を明らかにすることができた。また、ストラディバリウス以外のオールドバイオリンとストラディバリウスとの音響的特徴の違いやオールドバイオリンとモダンバイオリンとの音響的特徴の違いについても明らかにすることができた。これにより、オールドバイオリンの音響的特徴を解明するという本研究の目的の1つを完遂することができた。明らかにした音響的特徴の一つである放射の時間揺らぎについては、球形スピーカを使用したバイオリン音の聴取実験により、それがバイオリン音の音色に寄与するということを示すことができた。これにより、ストラディバリウスの音響的特徴の音色への寄与を実証するというもう一つの実験目的の達成に向けて大幅に前進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
実験計画に従い、これまでの音響実験および心理実験の結果に対して総合考察を行い、17世紀から18世紀に製作されたオールドバイオリンの音響的特徴についてまとめる。同時に、ストラディバリウスの音色に寄与する可能性の高い他の音響要因についても球形スピーカを利用して聴取実験を行い、ストラディバリウスの音色の優位性について実証データによる裏付けを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)現在論文を複数投稿中であり、また、近日中に投稿を控えているものもある。当初想定したよりも多くの論文を投稿する予定となり、また、オープンアクセスジャーナルの中には当初想定したよりも掲載料が高額なものも現れている。論文が採録された場合の掲載料を安全に確保するため、また、金銭的理由で論文の投稿先が狭まらないように次年度使用額を確保することとなった。 (使用計画)オープンアクセスジャーナルを中心とした論文の掲載料に充てる予定である。
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