研究課題/領域番号 |
16K00257
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
来海 暁 大阪電気通信大学, 情報通信工学部, 教授 (30312987)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 時間相関イメージセンサ / BRDF / BTF / コンピュテーショナルフォトグラフィ / 光反射モデル / 画像センシング |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,研究代表者の提案する三次元形状・光反射特性同時計測システムにおいて,高精度かつ高安定な計測を実現することである.本システムは時間相関カメラおよびLEDドーム照明によって構成され,三次元形状として法線方向,光反射特性としてBTF(双方向テクスチャ関数)を計測対象とする.これまでにLEDドーム照明を試作し計測実験を行ってきたが,誤差が生じることが確かめられた.昨年度は,LEDドーム照明の照度ムラおよび時間相関カメラの非線形応答がカメラ出力に及ぼす影響を数理的にモデル化し,それが実験結果とよく一致することを確かめた. 今年度はまず,時間相関カメラ出力においてLEDドーム照明の照度ムラおよび時間相関カメラの非線形応答による影響を補償する理論を構築し,その妥当性を撮影実験を通して確認した.この成果は1件の国内学会において発表した. また,LEDドーム照明の新たな駆動方式として回転位相正弦波PWM方式を検討した.従来方式では,カメラの1フレーム間に特定の緯線上でLEDを1個ずつ順にパルス点灯し1周走査するのに対し,新方式では,緯線上のすべてのLEDを同時に正弦波で強度変調しつつその位相を経度の分だけ順にずらして与える.新方式では物体からの反射光は常に正弦波で強度変調されるため,時間相関カメラの画素上で非線形応答が生じなくなる.この新方式が現行のLEDドーム照明の駆動回路基板上にパルス幅変調(PWM)形式で実装できるかを,FPGAボードを用いて検討した.この作業は従来方式の装置における実験と並行して進める必要があったため,昨年度と同型の1280x1024画素時間相関カメラを購入し,その制御信号をFPGAボードに入力して出力波形を観察した.その結果,シミュレーションレベルでは正弦波のPWM波形が正しく生成できたが,実装上はFPGAの回路規模が制約となることが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度の成果のうち,LEDドーム照明の照度ムラおよび時間相関カメラの非線形応答の補償に関しては,当初は学術論文への投稿までを計画していたが,その段階には至っていない.誤差発生モデルやその補償法の実験的な検証には理想的な光反射特性を有する評価用物体を用いることが望ましい.しかしそのような光反射特性を実現することは困難であり,本研究課題が対象とする三次元物体においては一層困難を極める.今年度は,研究代表者の大学で所有する3Dプリンタを用いて評価用物体をいくつも作製し,それが評価に適した光反射特性を有するようになるまで試行錯誤を重ねた.三次元形状はほぼ設計通りに自動で加工できるが,光反射特性は研磨により手作業で調整する必要がある.これらの作業に長時間を要したのが研究の遅れにつながった. また,LEDドーム照明の回転位相正弦波PWM方式に関しては,当初はFPGAを用いたPWM制御回路の設計を完了させ,FPC(フレキシブル)基板によるLED駆動回路の設計と製作に着手する計画であったが,PWM制御回路のシミュレーションによる検討に留まっている.FPGAはディジタルICであり,アナログ波形を出力することができないので,本研究課題では正弦波を三角波と比較することによりPWMディジタル信号として出力する.一方,FPGAの設計にはハードウェア記述言語(HDL)を用いるが,標準的な設計では実数関数である正弦波を扱うことができない.今年度は,HDLにおいて実数関数を扱う方法を見出し,さらにこの方法で設計した回路をFPGA上に実装するには,数値演算プロセッサの回路構成をFPGA内に組み込む必要のあることが分かった.しかし,研究代表者の研究室においてFPGAを設計するのはLEDドーム照明を製作したときが初めてであり,知識と経験が少ないことから,これらの結論に至るまでに相当な時間を要した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を踏まえ,最終年度である次年度は以下の課題に取り組む. まず,現行の回転走査方式であるLEDドーム照明の計測システムにおいて,LEDドーム照明の照度ムラおよび時間相関カメラの非線形応答に対する補償法を確立し,それに基づいて評価用物体を用いた実証実験を進め,国際学会や学術雑誌などで発表する.この補償については,通常方式の撮像に加えて同じ物体に対しLEDを1個ずつ個別に点灯した場合の画像も獲得し,この結果と現在構築した理論とを照合することにより,さらなる精度向上への手掛かりを見出す. また,新たな回転位相正弦波PWM方式に関しては,この実現には正弦波のPWM出力回路をFPGA上に実装することが必要となる.本来はこのための回路基板の製作までを研究期間内に達成する計画であったが,すでに当初の研究計画より進捗が遅れている点,残り期間が1年である点,および最終年度である次年度の予算が回路基板の製作に十分ではない点を考慮すると,回路基板の製作は断念せざるを得ない.しかし,現行のLED駆動回路基板上のFPGAに実装できれば,新たな回路基板を製作せずに新方式の実験的検証が可能となる.そこで次年度は,現行のLED駆動回路基板上のFPGAに正弦波のPWM出力回路が実装できるかを,HDLを用いた回路設計の検討を重ねることにより明らかにする.可能である場合は現行基板のFPGAにこの回路を実装し,実験的に動作を確認し,その成果を国内あるいは国際学会で発表する.一方,不可能となった場合は新たなLED駆動回路基板の設計に着手する.この際,現行基板における問題点,たとえばクロック信号の配線における雑音の混入,LED電源線の発熱,FPGAへの回路設計データ読み書き用インタフェースの改良,などの改善も検討する.
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