多方向型SMF の画質を改善する手法として,画像を分割し分割画像ごとのエッジ強度に応じた閾値を設定することで画質を改善する画像分割型多方向SMF を提案したが,前処理である分割画像ごとの閾値計算における仮の雑音除去処理が冗長であった.雑音が加わった画像から直接エッジ強度を計算すると,雑音のみが非常に強いエッジとして表れ,本来の画像に近いエッジ強度が計算できず,適切な分割画像ごとの閾値が設定できなく,仮の雑音除去処理が必要であった.また,仮の雑音除去画像を取得する多方向SMF の閾値は,従来の多方向型SMF と同様に1 枚の入力画像に対し単一の閾値とするため,仮の雑音除去画像の画質は,最終的な結果画像に劣り,閾値の精度が十分ではなかった.この問題を改善するために,従来の多方向SMF を基本とし,走査中の注目画素ごとの雑音検出時に閾値の計算をする適応的閾値を用いた多方向SMF を提案した.本手法の閾値計算処理では,注目画素の近傍領域のエッジ量として,局所的な画素値の全変動量を利用する.すなわち,領域内での隣接画素間の濃度差の絶対値の総和である.この値よりエッジ量を求め,それに応じた適応的閾値を画素ごとに計算する.適応的閾値の計算は,走査後の雑音除去済み画素のみから行うので,閾値の精度を改善するだけでなく,画像分割型多方向SMF の問題であった仮の雑音除去処理を省き,処理時間の短縮を可能とした.実験では,画像分割型多方向SMF の実験と同様,より現実的な雑音を想定したランダム値インパルス性雑音を用い,提案法のパラメータと雑音除去性能に関係や,他手法や多方向SMF,画像分割型多方向型SMF との比較をした.また,より現実的な条件での雑音除去を想定し,画像や雑音の割合が不明なことを前提とした固定パラメータを用いた実験を行った.これらの実験から,提案法の有効性が明らかになった.
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