研究課題/領域番号 |
16K00309
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
神尾 武司 広島市立大学, 情報科学研究科, 講師 (20316136)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マルチエージェントシステム / 強化学習 / 多船航路探索 / 機械学習 / 海上安全 / 行動選択制限 / 参照航路 |
研究実績の概要 |
安全性と効率性を勘案した航路を事前に選定することは船舶運航において重要な課題である.研究代表者は現実世界でも適用可能な航路を獲得するためのマルチエージェント強化学習システム(以後,MARLSと呼ぶ)に関する研究に取り組んできた.本研究の目的は,MARLSのツールとしての価値を高めるために,実航路を初期航路としてMARLSに与え,これを改善することにある.さらに,構築したシステムをもとに無衝突航路における不要な回避の検出や衝突発生(ニアミス)の原因究明を目指すものである. 平成29年度は研究実施計画に記載した『実航路の適切な区間の保存に配慮した航路改善法(第2研究テーマ)』を実現するために以下の通りに研究を実施した.まず,平成28年度考案のMARLSについて,その最大の特徴である「外部入力として与えられた参照航路に追従するための行動選択制限」を修正し,「参照航路の更新機能」を新たに追加することにより,学習効率と航路効率の向上を達成した.さらに,本MARLS(以後,MARLS2017)によって獲得される航路を確認したところ,初期の参照航路から乖離する傾向が強いことも明らかとなった.この現象は参照航路の頻繁な更新によって引き起こされるものであり,「航路の適切な区間の保存」という観点から判断すれば望ましくないものである.そこで,参照航路の更新が慎重に行われるように調整した結果,問題となる傾向を抑制できる反面,学習効率と航路効率の改善量に制限が加わることが判明した. 以上の研究成果から,MARLS2017は学習効率と航路効率の改善量に制限がかかることを許容することにより,参照航路の形状を大幅に変えることなく,言い換えれば,参照航路の適切な区間をある程度保持したまま,航路の改善を達成できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画に従って,『実航路の適切な区間の保存に配慮した航路改善法(第2研究テーマ)』を実現するために,新たなMARLS(以後,MARLS2017)を提案した.MARLS2017は,学習効率と航路効率の改善量に制限がかかることを許容することにより,参照航路の適切な区間をある程度保持したまま,航路の改善を達成できる.したがって,MARLS2017は第2研究テーマの要求を満足するものであり,順調に研究が進んだといえる. また,平成28年度に設置した自動船舶識別装置(AIS受信機)をベースとした実航路観測装置は平成29年度末に観測を終了した.だだし,観測データ量が膨大なため,提案システムの評価に適したデータの抽出に今しばらくの時間が必要である.そのため,実航路をMARLSに入力するためのプログラムを既に完成させているものの,データ抽出の問題から低い航路効率性を有する仮想航路を用いての性能検証がメインとなっている.データ抽出完了後,直ちに実航路を用いての本格的な性能検証を実施する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に提案したMARLS(以後,MARLS2017)は,学習効率と航路効率の改善量に制限がかかることを許容することにより,参照航路の適切な区間をある程度保持したまま,航路の改善を達成できる.したがって,MARLS2017は今年度の到達目標であった『実航路の適切な区間の保存に配慮した航路改善法(第2研究テーマ)』の要求を満足するものである. また,平成30年度の研究目標は『実航路と改善航路の比較により航路の不要箇所や衝突の原因を抽出する機能の追加(第3研究テーマ)』であり,本研究テーマは航路効率の改善およびニアミスといった危険回避という2つの観点から取り組むべきものである. そこでまず,航路効率の改善に親和性が高いMARLS2017を利用して前者の観点から本研究に取り組む.一方,危険回避の観点からの本研究に取り組むためには,強化学習における報酬の与え方や航路効率とは別の指標(安全度など)の導入が必要であると考えられる.この考えに基づいてMARLS2017への機能追加を検討する.さらに,これまでに収集した実航路データ(AISデータ)を精査し,仮想航路だけでなく実航路を用いて今後提案される新MARLSモデルの性能を評価する. 以上をもって,本研究課題である「マルチエージェント強化学習による実航路の改善」の研究完遂を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の予算超過が発生しないように調整した結果,残金が発生した.残金は物品費に換算して使用する予定である.
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