本研究は,Dynamic Syntax(DS)の枠組に基づいて,日本語の省略解析のためのDS文法を形式化し,コーパスの用例を解析することで文法の実用性を評価することを目的とする.そのため,先行研究のサーベイからはじめて,問題点の洗い出しおよびそれに対する代案,新規の分析を経た新たな理論的形式化を提示し,用例の解析を行う流れで段階的に目標を遂行してきている. 本年度の計画の目標は,言語理論的な研究のサーベイを終えて,省略解析を行う上で重要な言語情報の形式化を行うことであった.そして,目標遂行のため,言語学研究からは省略現象の類型およびそうした現象間の理論的関係を,また,言語処理研究からは省略解析におけるそのような現象の重要度および緊要の課題を調査することを具体的な作業内容として掲げてきた. 前年度に引き続き,言語の理論的分析および言語処理が扱う現象のサーベイにおいて,特に後者では検討されてこなかった構文,認識動詞構文について本研究は考察し,その結果,学術論文として採択されたものを以下にあげる(書誌情報は「7.研究発表」を参照.) Note on Japanese Epistemic Verb Constructions: A Surface-Compositional Analysis(日本語の認識動詞構文について:文の表層情報に基づく構成的な分析) 認識動詞構文は,文の深層情報から表層情報を派生させる変形文法において盛んに研究されてきた.この論文では,特に英語を対象に分析されてきた構文の統語的な性質に注意を払いつつ,DS,組合せ範疇文法といった変形を用いない枠組に基づいて,日本語における当該構文の意味的な構成性について検討した.その結果,表層の主文目的語が,表層では省略された深層の補文主語を意味的に統御しており,また,そのような特徴は日英語間に共通していることをこの論文は示した.
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