本研究は、申請者がこれまでに取り組んできたスプライン関数の理論と応用に関する発展として位置づけ、いわゆるスプラインベースドアプローチに基づくタブレットPC等の電子機器上での筆記を表現するために使われるデジタルインクのデータ圧縮法を確立する、ことを目的としている。平成30年度は、主に(A) 統計学的見地からの筆滑りの現象解明、と(C) スパースコーディングと辞書学習に基づく超圧縮法の開発、に関連する課題に取り組んだ。(A)に関しては、筆滑りに関するデータを十分に計測できず現象解明に至るのは難しいと判断し、別アプローチでの研究を進めた。具体的には、申請者らの筆文字に関する研究成果をもとに、デジタルインクを筆文字風へと変換する方法についてディープラーニングアプローチにより検討した。変換法は、エンコーダ・デコーダ型の畳み込みニューラルネットワークによる生成器であり、エンコーダ部において得られる低次元化された特徴を抽出・分析を行うことで今後筆滑りの現象解明へと繋がる可能性は得た。一方、(C)に関しては、前年度のコンパクトスプラインの設計法に関する研究を継続した。Bスプラインを用いた曲線の設計問題は、制御点の系列の設計問題として捉えることができる。ゆえにその曲線の形状の操作について制御点に対する操作として定義できる。ここで興味ある問題は、元のスプライン曲線の形状は変化させず支配的な制御点のみで表すことがである。この実現には支配的な制御点を探索することが主タスクとなるが、動的計画法を用いることで指定個数の制御点を高速で探索できる。この制御点探索において、設計される曲線のみでなくその微分値までを含めた多階層誤差関数の考えを導入することで、より精度の高いコンパクトBスプラインを設計することができることを数値実験により示した。
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