初年度である平成28年度に提案した,量子ビット表現された遺伝子を用いる進化計算手法におけるグラフ最適化が可能な遺伝子表現法を用いることで,グラフを解とする代表的な組合せ最適化問題の一つである最大カット問題の近似解を発見することができた.平成29年度は,提案した遺伝子表現法について探索性能の解析を行い,量子ビット表現における確率振幅の収束状態が解探索の停滞に深く関わっていることに着目して,収束状態を測定する指標を提案した.提案指標を導入し,探索アルゴリズムの特徴を考慮した多様性維持手法を適用することで解探索精度の向上が期待できる.また,非一様な回転角度を個性とみなし,量子個体における個性導入法を提案した.回転角度を厳密に調整した場合とほぼ同程度の解を探索することができ,回転角度の調整に要する煩雑な作業を軽減することができた. 最終年度である平成30年度は,①個性導入法の導入に関する詳細な解析を行うための追加実験を行った.回転角度に関する多様性が高い個性導入法ほど,量子ビット表現が持つ大域的探索から局所的探索へと自動的に遷移する特徴を増強する効果があることが分かった.また回転角度の刻み幅が小さいほど得られる解の精度が高くなり,回転角度の範囲のみの設定で個性導入効果が得られることを示唆する結果が得られた.②提案する遺伝子表現法を導入した進化計算手法の有用性を確認するために,分布推定アルゴリズムとの比較実験を行った.得られる解の精度は劣るものの,調整すべきパラメータが少なく,同程度の解を探索できることが分かった.③複数の目的関数を有する多目的最適化問題への適用範囲拡張を試みた.提案する遺伝子表現法を用いることで,多目的最大カット問題のパレート解を探索できた. 平成29年度までの研究成果を踏まえた上で,平成30年の研究成果①,②を加えて学術論文にまとめた.研究成果③は国内学会で発表した.
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