研究実績の概要 |
これは、人が誤字を無意識に自動訂正し、誤字を正しい熟語であると誤認する行動の特性を分析することによって、読字の脳内メカニズムを推定しようとする研究である。 以前の私たちの研究(矢内,林, 2016)により、横書きの「熟語」と「熟語として存在しない語(非熟語)」を刺激とした語彙判断課題(呈示される漢字2字が熟語か否かをできるだけ早く判断する課題)に関して、漢字2字の形の類似性が判断成績に影響することが示されていた。すなわち、形が類似しているほど判断成績が低下した。その結果を踏まえ、以下のように3年計画の課題に取り組んだ。 1年目は、書字方向(横書き、縦書き)が判断成績に及ぼす影響を調べた。その結果、個々の漢字の形のみならず、2字熟語全体としての形が処理に関わっている可能性が示唆された。 2年目は、人が2つの漢字に注意を向ける順序に着目した。2つの漢字を時間差で表示すること(注意の外因的な誘導)により、正しい熟語であるにも関わらず、逆順でディスプレイに表示して人を撹乱するなどした。正しい順序で表示した場合に比べ、逆の順序で表示した場合には語彙判断成績が低下した。このことは、注意の向けられる順序が、熟語か否かを判断するための脳内検索に影響していることを示唆している。 現在のところ、私たちは「漢字の形」を客観的に表現する手法を確立できておらず、考察に用いる形の決定は直感的な分類に基づいていた。客観性の問題を解消する試みの第一歩として、3年目である今年は、「人の反応特性」と「漢字画像のストローク占有率」(ストローク占有率とは、白地に黒の字であれば黒の比率である)との関係を調べた。その結果、熟語を構成する漢字2字のストローク占有率の和および差が、語彙判断エラーに影響を及ぼしていることが示された。たとえば和については、和が大きい方が、和が小さい場合よりもエラーが増えた。
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