研究課題/領域番号 |
16K00323
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大久保 潤 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (70451888)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 時系列データモデリング / 確率過程 / 双対性 / 出生死滅過程 |
研究実績の概要 |
今年度はまず数理的な基礎的研究として,対称単純排他過程(SSEP)および非対称単純排他過程(ASEP)と呼ばれる確率過程に関する双対性の研究を実施した.これらの確率過程は交通流の単純なモデルとして利用されることもあり,これまでにも双対性に関する研究は幅広くおこなわれてきた.これらの確率過程に対して,これまで研究代表者が開発してきた系統的な双対過程の導出方法を適用し,その結果としてSSEPについてこれまで知られていなかった開放境界条件下での双対過程を導出することに成功した.また開放境界条件下でのASEPの双対に関する議論も可能であることを示した.確率微分方程式や出生死滅過程だけではなく,スピン演算子を用いた確率過程にも系統的な双対過程の導出方法が応用可能であることを示し,応用の幅を広げることに成功した. 続いて,出生死滅過程に対する新しい双対性の利用方法を提案した.具体的には,遷移確率を計算するために双対性を利用できることを示した.また,確率的に解釈できない双対過程をそのまま連立微分方程式として数値的に解くことでも,実際に双対の性質を利用できることを示した.この双対性を利用することによってパラメータ推定などに必要とされる繰り返し計算を避けることができることから,この理論的枠組みは時系列データモデリングの高速化に役立つと期待される. なお,扱う変数の数が多くなる場合には次元数が巨大になり連立微分方程式を直接解くことができなくなる.そこでモンテカルロ法を用いる必要があるが,その際に「負符号問題」と呼ばれる数値的取り扱いにおける困難性が生じることも,簡単な例を用いて明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的である時系列データモデリングにおける双対性の利用について,これまで扱われていなかった確率過程についての検討を進めて応用の幅を広げられたほか,出生死滅過程における新しい双対性の利用方法についても提案をすることができた.また,確率過程として解釈できない双対過程を取り扱う数値的手法についても,具体的な例を通して手法の有効性を示すことができた. モンテカルロ法に関しても検討を進めることができ,「負符号問題」の発生を確認することができた.
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今後の研究の推進方策 |
モンテカルロ法の利用については,量子モンテカルロ法でも「負符号問題」が知られていることから,それらの研究の知見をもとにして有効な数値的解法を提案することを目指す.一般的には「負符号問題」を解決する方法は知られていないが,双対確率過程の特殊性を利用することで数値的な誤差を小さくできる見込みである.また,現在の双対性はTaylor展開のようなべき乗展開に対応することがわかっている.その他の関数系での展開が可能であるという理論的な見通しも得られているため,今後,これらの点についても既存の展開手法等を参考にしながら検討を進める予定である.
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