今年度は双対性の応用可能性の幅を広げる観点から,制御系に関して双対性に注目した基礎的な検討を実施した.具体的には制御対象が確率微分方程式にしたがうシステムを考えた.すなわち各時刻ステップでノイズの影響により制御対象が不規則に動いてしまうような制御系である.そのような不確実な環境下において,まず,どのような最終目的地点に向かいたいのかをコスト関数として設定する.つまり向かいたくない場所には大きなコストを付与することで,目的地に到達しやすい形にする.さらに途中で通過することが望ましくない場所に対しても大きなコストが付与されるような形でコスト関数を定義する.これらのコスト関数に加えて電力制約等も考慮し,あまり制御入力が大きくならないようにする.以上のような設定で,現在の状態に対してどのような制御入力を与えれば良いのか,ということを計算することを目的とする.このような問題設定に対してはすでに様々な研究成果が存在する.今年度の研究においては,そのなかでも特に経路積分制御と呼ばれる手法についての部分的改良を試みた.制御系でハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式と呼ばれる制御の基本となる方程式が,そもそも時間方向を逆向きに考える形である.このような数理的な構造に対して,これまでの本研究課題で扱っていた確率微分方程式と出生死滅過程との間の双対性との関係性が期待される.経路積分制御はハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式をさらに逆向きに時間発展させることで達成される.モンテカルロ法の利用によって次元の呪いを避けられる一方で,まだ計算量が多いという問題点もあった.そこで素朴な関数補間の手法を用いることで,計算量を削減できることを示した.本成果はすでに学会発表済みである. また国際会議での基調講演を依頼されたため,これまでの双対性に関する研究成果をまとめた講演も実施した.
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