最終年度となる今年度は,これまでのまとめとして主に実際の適用の際の工夫につながる細部に関する研究を実施した.事前計算において利用されるモンテカルロ計算において,非常に多くのサンプリング必要である,ということがこれまでの研究によって明らかになっていた.そこで,事前計算で利用されるアルゴリズムを含む,より一般的な「イベント駆動型」のシミュレーションに関する改良の提案と検証を実施した.イベント駆動型のシミュレーションは待ち行列理論や化学反応系の研究でも利用される,応用範囲の広いものである.通常,シミュレーションのサンプル数を増やすためには乱数の発生回数も増やす必要があるが,例えば一度の乱数発生から複数のサンプリング結果を得られれば,効率の良いシミュレーションが可能となる.今年度の研究により,重点サンプリングの考え方を利用することで,乱数の発生回数を減らせる可能性を示唆し,実際に簡単なシステムに対する適用を通して効率性が向上することを示した.同じ乱数を利用することによるバイアスの問題等の数理的な研究が今後必要となるが,本研究課題において提案していた手法の実用性を高める成果と言える.本成果はすでに学会発表済みである. また,双対性を利用した計算の枠組みに関して,これまでの研究成果を数学系のシンポジウムにて招待講演をする機会を得たため,実施した. その他,前年度実施した制御系への応用についても基礎的な検討を引き続いて実施した.その結果として,双対性の枠組みを利用した制御手法の構築が視野に入ってきた.もともとの時系列データモデリング手法という目標を超えた新しい展開へとつながる成果が見えてきたと言え,今後,本研究課題終了後にも引き続き研究を進める予定である.
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