研究課題/領域番号 |
16K00325
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 禎彦 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 准教授 (20512354)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生物物理 / システム生物学 |
研究実績の概要 |
本研究は,動的情報伝達機構の解明を,最適原理に基づく手法によって明らかにするものである.生物には物理学や化学におけるような統一的な理論がないと考えられている.しかし,生体メカニズムは進化的に環境に適応してきているため,「環境に対する最適性」によってそのメカニズムの機能を説明することが出来ると考えている.つまり,生体機能の理解には数理最適化による切り口が非常に有効であると考えられる.細胞は外界の情報をシグナル伝達系や転写翻訳ネットワークによって細胞内に伝える.シグナル伝達によって,細胞は環境に適した応答(適切なたんぱく質合成など)を行うことが可能になる.シグナル伝達は細胞の中心的な機能であり非常に重要であるため,少ないエネルギーで正確に伝えることが出来るように高度に最適化されていると考えられる.本研究課題では,情報伝達機構における多くの疑問を最適性の観点から答えることにある.近年,細胞は濃度や分子種の観測のみならず,動的なシグナル分子のパターンも認識できることが明らかになっている.本研究ではこの点に着目し,シグナル伝達における動的なパターンを最適化原理によって求めた.具体的には,情報を正確かつ少ないエネルギーで伝えることに適したパターンを最適制御理論によって求めた.この結果,シグナル伝達で頻出のパターンが,これらの最適化原理より導くことが出来ることを初めて示した.この成果を査読付き論文誌(New Journal of Physics)に発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画では,シグナル伝達系を最適制御理論と確率過程の手法を用いて解析し,シグナル伝達系の理解を深めることが目的であった.この研究計画に従い,平成28年度の研究では,シグナル伝達系における動的シグナル分子のパターンに着目し,正確に情報を伝える能力と少ないエネルギー消費に注目し,最適な動的パターンを数理的に解析した.平成28年度の研究成果によって,シグナル伝達系がどのような進化的淘汰圧の下で獲得されたかが,非常にシンプルな物理モデルによって説明することが可能となった.特に,今までは,動的なパターンで頻出しているOvershootパターンが,情報伝達の精度とエネルギー消費量を最適化するために必要であることを初めて明らかにした.また,他のよく見られるパターンについても説明することに成功している.この手法をさらに発展させることで,他の生体メカニズムの機能の説明が可能になると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
シグナル伝達系の最新の研究動向を調査し,今までの研究成果を発表するために予定であり,その予算を使用予定である.現在執筆中の論文について,英文校正代が必要である.また,採録された場合は投稿料として予算を使用する予定である.本研究課題は指導する学生が研究テーマとして研究している.これらの学会発表や論文発表のために使用する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
10万円ほど余ったが,これは物品価格,校正価格,旅費などの価格変動のためで,予算執行状況はおおむね予定通りである.
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次年度使用額の使用計画 |
10万円の残りはあったが,今年度は予定通り予算を研究に用いる予定である.
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