生物には物理学にあるような統一的な理論がないと考えられている.しかし,現存する生体メカニズムは進化的に環境に適応したシステムとなっているため,「環境に対する最適性」がすべての生体メカニズムの根底に存在している.細胞は外界の情報をシグナル伝達系や転写翻訳ネットワークによって細胞内に伝える.情報伝達は細胞の中心的な機能であり非常に重要であるため,少ないエネルギーで正確に伝えることが出来るように高度に最適化されており,情報伝達機構における多くの疑問は最適性の観点から答えることが可能である.本研究ではこの点に着目し,数理最適化や最適制御理論を用いて細胞の情報伝達機構の解明を行うことを目標としていた.2016年度の研究では多変量情報を,細胞がどのように最適にデコードしているかを明らかにした.最適制御の理論を応用することで,最適な分子ネットワークの構成原理を求めた.さらに2017年度の研究では確率熱力学の知見を用いることで,細胞振動子ネットワークがどのように精度を担保しているかを明らかにした.具体的には,振動子はInformation Flowと呼ばれる情報の流れを用いることで,精度の分散を向上していることが明らかになった.2018年度の研究では,時系列データ解析のための,位相データ解析の手法を提案した.また,細胞におけるモデル化では,分子の拡散を無視したモデル化を行うが,どのような条件でこのような近似が可能かを理論的に示した.以上で上げた成果を査読付き論文誌(Physical Review E,Chaos)に発表した.
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