研究課題/領域番号 |
16K00337
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
松井 伸之 兵庫県立大学, 工学研究科, 特任教授 (10173783)
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研究分担者 |
礒川 悌次郎 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (70336832)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子ビットニューロン / 複素数表示 / 四元数 / ニューラルネットワーク / シュレディンガー方程式 / 量子波動 / 群ロボット / 量子計算知能 |
研究実績の概要 |
本課題では、量子情報理論と量子バイオロジーに立脚した計算知能手法を確立し、これらの技法が優位に働くシステム応用を新しい工学体系として構築することをめざしている。該当年度においては、1.昨年度からの課題であった量子状態記述としての複素数値表示や四元数表示を検討した。さらにそれらの優位性を明かにすべく、拡張型量子ビットニューロンによる深層学習ネットワーク構築を試みた。2.量子ダイナミクス手法による知的タスク処理を試論した。また、3.量子力学的手法の計算知能への適用がいかに効果的であるかを量子計算知能として普及させるべく研究活動を行なった。その結果、上記1~3に対し、主に以下の研究成果を得た。 1.に関しては、複素数表示量子ビットニューロンにさらに重みを付随させた拡張型量子ビットニューロンを提案し、これを畳み込みニューラルネットワークに融合させた多層ネットワークを構成して、従来の多層ニューラルネットワークとの性能比較をMNISTデータを通じて行った。その結果、従来モデルに比して性能向上は見られたものの顕著な差異は見いだせず、今後の精査を課題として残す結果となった。四元数表示においては、連想記憶型やExtreme(EL)学習における四元数導入効能の吟味を行ない、それらの性能特徴を明らかに示し得た。しかし、四元数表示による量子ビットニューラルネットワークの性能評価には至らなかった。 2.に関しては、シュレディンガー方程式を基盤とする量子ダイナミクスを構築し、群ロボット制御における性能評価などを行い得た。ミクロマクロを問わず、運動系の制御に量子ダイナミクスを効果的に導入しうる新手法の端緒を得た。 3.に関する成果としては、共著で「量子力学的手法によるシステムと制御」をコロナ社より出版することができた。 以上が当該年度に達成し得た研究実績の概要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者らの複素数表示量子ビットニューロンモデルを引用した文献やレビューが近年増加し、多くの実応用においてその有用性が示されてきている。また深層学習研究も急速に進展している。そこで、複素数表示によるモデルの性能を精査し、量子ビット深層学習を考察するべく、量子ビットニューロンの発展モデルを畳み込みニューラルネットワークに融合し、その性能を調べた。しかしながら、さらなる性能向上のためには、これまでの3層型構造とは異なり、深層型構造における量子ビットニューロンの活性化関数や学習を見直すことなどが今後再検討しなければならない課題として残った。量子状態の四元数による完全記述についても試論の段階に留まっている。これらの点が当初の計画に比してやや遅れている。しかしながら、新たに量子ダイナミクスによる知的処理の新手法の端緒を得たことや、研究発表欄に記載したように研究成果の一部を発表するとともに、計測自動制御学会の計測・制御テクノロジーシリーズの一巻として「量子計算知能」や「量子最適フィードバック制御」などをまとめることができ、全体の研究計画はおおむね達成できたものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
量子ビットニューロンにおける量子状態記述はまだ完全ではなく、自由度を制限した特殊な表現である。四元数代数に基づく四元数ニューラルネットワークについては、階層型をはじめ、オートエンコーダやEL学習などについても評価できている。量子状態のユニタリー変換を記述するパウリ行列はこの四元数代数と同型であるので、それらの知見を参照しつつ、量子ビットニューラルネットワークや量子情報描像のない四元数ニューラルネットワークの性能評価を、各種信号処理問題を通じて行い、四元数表示量子ビットニューロンの優位性を示すことが今後の推進方策の一つである。近年の人工知能技術の中核である深層学習には、膨大な計算パワーと膨大なデータ学習が必須であるが、量子並列性や量子もつれを取り入れた量子ビットニューラルネットワークが深層学習の欠点を補いうるかを検証することも今後の課題である。また臭気センシングシステムの構築も進め、臭気データを収集してきたが、これらのデータ処理モデルとして量子バイオロジーの知見に基づく計算知能(量子生物知能)モデルを模索することも次年度の課題である。 さらにシュレディンガーの波動方程式を直接導入する量子ダイナミクスによる知的センシング処理応用も今後進める予定である。 各問題点などは相互に関連させフィードバックさせながら研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 国外での研究発表の中止及び国内での研究発表のすべてに研究代表者が行く必要がなくなったため、旅費が少なくて済んだことによる。 (使用計画) 最終年度であるので、研究発表・打ち合せなどを頻繁に行う予定である。これに対する研究協力者への旅費に追加使用する予定である。
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