研究実績の概要 |
概日時計による性周期の制御機構を理解することによって,不妊対策の指針を得ることを目的とし,以下の課題に取り組んだ. 1. メスマウス位相応答の性周期依存検証: 実験動物には野生型メスマウスを用い,輪回し実験による行動データ実験から、光入力刺激に対する位相応答を計測した.特に、発情前期、発情期、発情後期、発情間期の性周期段階毎の位相応答曲線を構築した.この結果、段階毎に応答特性の有意差は見られないことが分かった.これは、メスの概日行動を決めているのはあくまで中枢時計の視交叉上核(SCN)であり、性周期の中枢への影響はあったとしても弱いことを示唆している.従って、性周期の制御においては、中枢時計を整えることが重要となる. 2. 体毛を利用した概日時計測定法の開発: 性周期の乱れを検出する基礎データとして、ヒトの体内時刻をストレスなしに、正確に計測する技術は必要不可欠である.体内時刻を非侵襲に計測する方法として、体毛を利用した概日時計測定法を発展させ、5名の被験者に応用した.これによって、1日3点のデータ計測で、2つの時計遺伝子(PER3,NR1D1)の発現量を計測できれば、最小二乗法で、1時間以内の精度で体内時刻を推定できることが分かった.ヒトの性周期リズム計測において、基盤技術となりうる. 3. 性周期の数理モデル:概日リズムに制御される性周期に関する数理モデルを試作した.卵巣におけるエスロトゲンの蓄積とSCNからの時間シグナル入力および, GnRH生成ニューロンからの黄体形成ホルモン(LH)分泌と卵巣におけるLH感受性の概日変動をモデル化した.老化によってSCNの時間シグナルが減弱すると仮定したところ、排卵周期が不規則になることが確認できた.予備数値実験結果は、老齢マウスにおいて、中枢時計の信号が弱くなることが要因で、性周期の不規則性が起こり、不妊につながることを示唆している.
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