研究課題/領域番号 |
16K00344
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
肥川 宏臣 関西大学, システム理工学部, 教授 (10244154)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自己組織化マップ / ハードウェア実装 / 疑似好奇心 |
研究実績の概要 |
2018年度は, 提案するディジタル周波数同期ループ(DFLL)を用いたハードウェア自己組織化マップ(Self Organizing Map: SOM)の高速化を行った.昨年度 256 個のニューロンからなる SOM を開発したが,十分な動作速度が得られなかった.動作速度を改善するため,近傍関数の簡略化と各コンポーネント回路の見直しを行った. 通常 SOM のようなハードウェアシステムは数値演算を用いるが,提案するSOMはパルス処理により動作する.この動作原理の違いを検証するために数値演算を用いたハードウェアSOMを開発し,比較を行った.この数値SOMの開発過程で,ハードウェア SOM の大規模化に対応できる入れ子構造アーキテクチャを提案した.この入れ子構造は,より多くのニューロンを含む大規模ハードウェア SOM の開発が容易になった. 本研究課題で提案している,疑似好奇心機能を提供する近傍関数の詳細動作に関する詳細実験を行った.本研究では,好奇心を「未知の事象に強い関心を持つ性質」と仮定し学習アルゴリズムを改良した.これにより,脳のように外部からの未知入力に対応して学習し続けるSOMを実現できることが確認できたが,この学習特性が人間の好奇心モデルとしての可能性について考察した. 上記学習アルゴリズムを用いたSOMによる指文字認識実験を行い,十分な認識性能を持つことを確認したが,若干従来型SOMより認識性能が劣化することが分かった.これを解決するために,複数 SOM を用いたベクトル分類器を提案し画像認識実験を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度に開発した,研究課題であるDFLLを使った,256個のニューロンで構成されるハードウェアSOM(DFLL-SOM)についてIEEE ISCAS 2018において成果発表を行った.しかし,このSOMは動作速度が予定より遅かったため,動作速度の改善を行った.まず,SOMの近傍関数を2のべき乗型から三角型への変更と細かい回路の見直しを行い,Xilinx社Virtex-6 FPGA使用で66MHzクロックでの動作が確認できた.改良前は30MHzの動作だったので,2倍以上の速度改善となった.これと並行して,通常の数値演算によるSOMとの動作比較を行い,動作原理の違いによる性能差を定量的に評価した.比較対象として入れ子構造のアーキテクチャによるSOMの開発を行い,FPGAを使ったDFLL-SOMとの比較実験を行ったが,この実験を通して,入れ子アーキテクチャは多数のニューロンを含む大規模SOMの実装が容易になることがわかった.この特徴はDFLL-SOMの大規模化にも貢献できると期待できる.以上の三角型近傍関数の導入と入れ子アーキテクチャの評価実験に手間取ってしまったため,進捗にやや遅れが生じてしまった. 疑似好奇心機能を提供する近傍関数について様々な入力に対する実験を行った.人間が持つ3種類の好奇心の中の一つである拡散的好奇心に相当するモデルとしての可能性を確認し,IEEE SSCI 2018 で成果発表を行った. 提案するSOMの応用として,複数のSOMによる入力データのグループ化を行うベクトル分類器を提案し画像認識システムに応用した.このグループ化により認識率の向上が行えることを確認した.その成果を電子情報通信学会の論文として発表した.
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今後の研究の推進方策 |
より正確な比較を行うために,現状,Virtex-6 で動いているDFLL-SOMと数値演算型SOMをそれぞれ,最新のFPGAへ移植し,同じ条件での比較実験を行う. 2017年度のハードウェアSOMが2のべき乗型近傍関数を使ったのに対して,2018年度に改良したSOMは三角型近傍関数を使用している.これに合わせて,近傍関数回路に組込む疑似好奇心機能の改良を行う. 数値演算SOM開発の過程で提案した入れ子構造アーキテクチャを用いて提案するDFLL-SOMの拡張と回路構成の細かな調整による高速化を図る. 以上の方針で研究を進めることで,提案する研究課題である「脳を模倣したパルス駆動ハードウェア自己組織化マップ」としてまとめる. 2018年度に提案した入れ子構造SOMと,グループ化を用いたベクトル分類用SOMが非常に親和性が良いと思われる.そこで,これら両者を統合したベクトル分類器の可能性について検討する.これは,開発中のハードウェアSOM の将来的な応用として,各種認識システムに応用できると期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に実施したハードウェアSOMの実験を現有する FPGA により行うことができたため,予定していた新規のFPGAボードを購入しなかった.そのため次年度使用額が生じた.2019年度は,開発した DFLL-SOM の成果発表のための論文投稿費,学会での成果発表として使用する.
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