研究課題/領域番号 |
16K00380
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
梶原 利一 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (60356772)
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研究分担者 |
冨永 貴志 徳島文理大学, 神経科学研究所, 准教授 (20344046)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 選択行動解析 / 条件付け / 嗜好性 |
研究実績の概要 |
本研究では,嗜好性を生み出す際の神経回路メカニズムを解明することを目的とした.その為にまず,ラット・マウスの聴覚系嗜好性行動実験パラダイムを開発し,その上で,齧歯類の視床,聴覚野,前頭眼窩皮質の脳部位が,情動中枢(扁桃体)などとどのように協調動作しているのかを神経科学的な手法を駆使して解析する計画とした. 平成28年度は,主に,以下に示す実験系の構築,および,行動実験の計画を進めた. 行動実験系の構築:課題遂行能力や神経応答解析の難易度の観点からはラットが適する為,まず,ラット用のM型迷路ボックスを構築した.赤外線センサーにより駆動される刺激や報酬の呈示用の回路,および,動物の行動パターン解析を行う画像処理は,LabVIEWにより開発した.また,将来,膜電位感受性プローブを発現させたマウスを活用する目的から,マウスの系の開発に取り掛かり完成させた.また,CuBASEソフトウェアを用いてラット・マウスの可聴域を考慮した,様々な呈示用音源を作成した. ラット・マウスを用いた行動実験:上述のM型迷路実験系を用いて,音源呈示側で報酬を与える条件付け課題を行った.ラットの場合,白色ノイズを含むいずれの呈示音に対しても忌避反応を示さず,音源呈示側の通路を選択する学習行動が確認できた.その後,複数の音源を対呈示することで,いずれの音源をラットが最も好むのかを調べ,嗜好性の有無を検討した.その結果,個体によって選ばれる音の順位が異なる傾向があることが示唆された.マウスについても,同様の検討を行ったが,音や報酬とは無関係の探索行動が長時間続き,ラットのような選択行動パターンを抽出することはできなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラットの行動実験については,概ね順調に進んだ.行動実験については,ラットの場合,音をCSとした報酬(US)との条件付け実験は,2~3日で終了したが,異種音の対呈示課題で,例数を得るのに極めて時間を要したため,標本数が十分には得られていない状況である.引き続き,音の呈示時間の短縮などにより効果的にデータを収集するための検討を進める.また,マウスの実験では,ラットと比較して,選択行動観察に困難を要した.そこで,改編型Y迷路を構築した.この改編型Y迷路は,マウスが開始地点から一方のポートを選択すると,選択したポートに滞在しつづけるか,逆戻りせずに別の通路を経由して開始地点に戻ることしかできない仕様となっており,引き続き生じる選択行動を,長時間にわたって簡便に観察可能になることが期待される.また,行動実験と平行して,音嗜好性課題への関連が示唆される脳部位に着目した神経応答解析を,脳スライス標本を用いて進めるとともに,in vivo 系の実験系構築にも取り掛かった.
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今後の研究の推進方策 |
ラットの行動実験については,呈示音種の更なる検討を進める.また,報酬ありの選択行動実験課題に加えて,報酬なしの音選択行動実験課題についても取り組む.マウスの行動実験については,今回使用したのはICR系マウスであったため,C57BL系マウスでの検討を進める.更に,開発したマウス専用の実験系を用いて,報酬ありの条件付け課題を行い,作成した呈示音の識別が可能かを検討し,その後,音選択行動パターンの長時間計測を行う.また,次年度は,行動実験を更に進めるとともに,嗜好性に関与すると考えられる脳部位に着目した薬理学的な神経応答抑制実験や,神経応答解析を,脳スライス および,in vivo 標本を用いて行う計画とする.薬理学的抑制実験では,特に眼窩前頭皮質もしくは扁桃体の一部の神経機能を,ムシモル投与により一定時間抑制し,その際の選択行動観察を行うことにより行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
ラットの行動実験では,想定していたほどの例数を得るまでに至らなかったこと,マウスの行動実験が,想定したとおりに進まなかったこと,などから, in vivo神経応答解析実験験系の構築と,薬理学的抑制実験の,進捗が若干遅れた為,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
in vivo神経応答解析実験験系の構築のための関連機器と,薬理学的抑制実験に要する消耗品に,使用する計画である.
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