研究実績の概要 |
遺伝子の転写制御カスケードを予測するために、遺伝子から離れた位置(エンハンサー等)に結合する転写因子が発現を制御する遺伝子(転写標的遺伝子)を予測した。転写因子と遺伝子の対応関係の正しさを評価する新しい手法を開発し、転写標的遺伝子には、似た機能の遺伝子が多く含まれることと、遺伝子近傍(プロモーター)の転写因子のDNA結合位置のみを用いたときと比較し、転写標的遺伝子の発現量の違いが大きいことに注目した。結果として、転写因子と遺伝子の対応関係のより良い基準を選択できた。また、転写因子と遺伝子の相互作用の仕切り(インシュレータ)として機能する、転写因子CTCFやコヒーシンのDNA結合位置で、転写因子と遺伝子の対応を区切ると、より良い対応基準が得られた(Osato N, BMC Genomics 2018, 情報処理学会 山下記念研究賞を受賞)。またES細胞やiPS細胞の幹細胞では、遺伝子遠位の転写因子のDNA結合は、遺伝子近傍のDNA結合に比べ、遺伝子発現の抑制に関わり、成熟分化した免疫細胞では、遺伝子発現の活性に関わる傾向があった。同じ転写因子でも細胞の種類により機能が異なり、細胞分化に関わる発現制御の違いが示唆された。学会発表等で発現制御に関わる可能性のある因子の情報を得た。深層学習により、遺伝子遠位と近傍の転写因子のDNA結合の情報から、細胞や組織の遺伝子発現量を予測する手法を開発し、各DNA結合の発現量予測に対する重要度(貢献度)のスコアを計算した。この手法を用い、インシュレータ機能に関わる転写因子を予測し、遺伝子発現の抑制と活性の領域の境界に結合していた。従来、CTCFがインシュレータ機能の中心と考えられていたが、遺伝子発現制御に関わる新しい知見と概念を得た(国際学会ISMB, Intelligent Systems for Molecular Biologyの口頭発表採択2022)。
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