研究課題/領域番号 |
16K00402
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
木村 敏文 兵庫県立大学, 環境人間学部, 助教 (00316035)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオインフォマティクス / 生態画像解析 / プログラム開発 / 行動分類 |
研究実績の概要 |
社会性を持った動物は、集団として高い環境適応能力を有し、効率の良いコロニー維持機構を持っている。社会性昆虫であるミツバチの社会性を解明するためには、「個体」と「集団」という2つの観点から巣内での役割やその分布の変化を長期に渡って、観察・解析する必要があるが、このような報告はまだない。応募者らはこれまでに複数個体同時追跡プログラムK-Track(Kimura et al., 2014, PLos One)を開発してきた。本研究では、K-Trackで得られる個体ごとの正確な位置情報に、動物行動の研究者が持つ個体の行動分類の知識を組み込んだ行動解析プログラムの開発を目的としている。これまで、多くの時間を費やしていたデータ取得を開発プログラムが担えば、長期に渡るデータ解析も可能で、結果的により詳細な行動戦略の解明につながると考えられる。 平成28年度に取り組む課題は「複数個体同時追跡プログラム K-Trackを用いた個体位置データ取得」であった。研究協力者が在籍し、データを提供を受けているオーストリア・グラーツ大学(ミツバチ)、神戸大学(アリ)、兵庫県立大学(アリ・アリグモ・クモ)で撮影された映像から、 K-Track を用いて、個体識別・追跡を行い、個体の位置情報を取得を行った。また、K-Trackの性能評価やそれぞれの種の基本行動データを取得するため、1秒25フレームまたは30フレームの映像に対して手作業によるデータ取得も同時に行った。2つの作業から K-Track で習得するデータの妥当性が検討することが可能になるとともに、種ごとの動きの特徴や種間における行動の違いを検討するための基本資料となる貴重なデータ取得ができたものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度に取り組む課題は「複数個体同時追跡プログラム K-Trackを用いた個体位置データ取得」であった。具体的には対象昆虫の実験映像に対して、1) K-Trackを用いた個体位置情報の取得、2)画像解析ソフトウェア Fiji(https://fiji.sc/)を用いたマニュアル作業による個体位置情報の取得、といった2つのテーマを実施した。 課題1)については、K-Trackがミツバチを対象とした行動追跡のために開発したソフトウェアであったため、アリやアリグモといった他の種に対しては動きのスピードや不規則性が発生し、多少のソフトウェアを調整する必要が生じた。しかし、年度内で対応ができたことからおおむね順調にデータ取得ができたものと考えている。 課題2)については、実験映像で撮影した対象昆虫の位置をマウスを用いて、1つ1つ指示することでデータの取得を行っている。研究補助者の雇用を行い、実施していただいきましたが、雇用当初は慣れない作業のため、慣れるまでに時間が予想よりも長くかかってしまったこと、また、長い時間の作業が困難であった。そのため、最初のうちは作業時間・作業効率が思うように上がらず、結果として、やや遅れている、と判断した。しかし、年度の最後には作業にも慣れ、コンスタントに作業を行うことが可能となったため、平成29年度内で十分対応できる、と考えている。また、研究補助者の追加雇用も検討している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には平成28年度に得られているデータを用いた論文や国内外での学会にて、成果の発表を行う。また、研究代表者である私は情報工学を専門とする研究者であるため、研究協力者へのデータ提供を行い、行動やデータの解釈についての議論しながら、ソフトウェア開発に必要な基本的な知識を得ることを目指す。 具体的な課題としては、平成29年度には「行動分類法のアルゴリズム化」である。コンピュータを用いて自動で行動分類を行うためには、1)動物行動学の研究者が経験的に持っている分類方法を理解する、2)K-Trackで得られたデータと行動分類を対応付けて、行動ごとに定義する、といった過程を行う必要がある、と考えられる。これまでにミツバチを対象として、研究協力者が在籍するグラーツ大学の研究室で行った行動分類について検討を行い、定義を行った(村田学術振興財団助成金での研究成果)。得られるデータから種々の行動分類の特徴を見つけることでプログラムに組み込むためのアルゴリズム化ができるミツバチ以外の昆虫として、平成28年度に研究協力者らが対象としているアリやアリグモ、クモの行動データの取得をK-Trackや研究補助の方の協力で実施した。これらのデータを専門家である研究協力者の先生方に提供する、また、これまで専門家が行っているデータからの行動解釈や分類のような知識をマニュアル化することで、行動分類アルゴリズムの構築を目指す。情報工学を専門とする研究代表者である私とアリやアリグモの動物行動学を専門とする研究協力者の先生方が協力することによって、これまでにない観点での行動解析が期待でき、また、行動分類アルゴリズムを構築の高速化も期待できるものと考えている。 構築を目指すアルゴリズムの実装は我々が開発している K-Track の機能として実現し、個体識別、追跡から行動分類までを一括で行えるソフトウェアを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費残額が生じた主な理由は研究補助者の人件費にある。 具体的には、「研究補助者の雇用について雇用者決定が難航したこと」、また、「特殊な作業のため、作業工程の取得や慣れるまでに時間がかかり、計画当初の時間を実施することが難しかったこと」が挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
研究補助者の方を引き続き、雇用するため、実施作業の熟練度も上がった。平成29年度は平成28年度に予定した作業を加えた分の作業が可能である、と考えている。また、作業効率を上げるため、研究補助者の追加雇用も検討している。そのため、主に人件費として使用する予定である。
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