研究課題/領域番号 |
16K00405
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
杉崎 えり子 玉川大学, 脳科学研究所, 特別研究員 (20714059)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 海馬 / 歯状回 / STDP / 空間情報 / 非空間情報 / アセチルコリン |
研究実績の概要 |
海馬歯状回における空間情報と非空間情報の情報統合学習に集中・注意がどのような効果をもたらすか明らかにするため、今年度は顆粒細胞の各入力情報に対するアセチルコリン作用の解明に取り組んだ。 まず、空間情報経路と非空間情報経路が同一海馬スライス上に投射するように、腹側海馬を用いたスライス作成の技術習得をした。次に、空間情報が入力される内側嗅内野から伸びる内側貫通路(MPP)と細胞体からスパイクタイミング依存可塑性(STDP)誘導刺激を入力したところ、顆粒細胞ではSTDPが見られなかった。これは、以前の研究であるYang and Dani, 2014らと同様な傾向となった。次にアセチルコリン(エゼリン2マイクロM)を作用させたところ、長期抑圧(LTD)が誘導された。一方、非空間情報入力である外側貫通路(LPP)に同様なSTDP刺激を入力したところ、長期増強(LTP)が誘導され(Lin et al., 2006)、アセチルコリンの作用が働くと、LTDに変化した。 これらの結果から、アセチルコリンの作用があるとSTDPは下がる方向に変化することがわかった。つまり、個々の入力情報に対する集中・注意(アセチルコリン)の効果は記憶を劣化させる方向に働く。以前の海馬CA1野での研究では、アセチルコリンはシナプス結合を強化したことから、歯状回においても同様な傾向を持つものと考えていたが、結果は異なった。これは、個々の情報ではマイナス作用をもたらすアセチルコリンでも、両情報の統合時にはプラスに働く可能性があることや、歯状回は繊細な領域と思われることから、今回投与したアセチルコリン(エゼリン)の濃度が濃すぎて歯状回ネットワークのシステムが変わってしまったことなどが考えられる。いずれにおいても、歯状回の顆粒細胞に集中・注意が働くと記憶に修飾がかかることが本年度の研究から分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、アセチルコリンを作用させない一連の実験、作用させる一連の実験と分けて行う手順を計画していたが、両者を関連付けながら行うように変更した。これにより、アセチルコリンの効果を見ながら実験を進められるようになったため、効率が良くなった。しかし、本年度の実験結果からアセチルコリンの濃度に懸念が生じたため、様々な濃度で検証をする必要性が出てきた。そのため、当初想定していなかった追加実験が必要となった。総合すると、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の実験結果からエゼリンの過剰投与が懸念されるため、投与量を減らして応答にドラステックな変化が見られるか確認する。次に、空間情報と非空間情報の統合メカニズムを検証するために、MPPとLPPに生体条件に近いリズムの刺激をタイミングを取って入力する。そこで得られる応答と、個々の刺激による応答の加算を比較検討する。その時、空間情報と非空間情報のタイミングの一致性による相乗効果など、情報統合の特性を多方面から確認する。また、アセチルコリンが情報統合に及ぼす効果も検証する。これらの実験から、顆粒細胞での情報統合の特徴と、集中・注意が情報統合に与える効果が明らかになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初ラットの購入を考えていたが、他実験と共有して使用することができたため、その費用が発生しなかった。また、薬品においても以前に購入したものを使用することができた。さらに、リニアスライサーが想定より25万円程度安価に購入できたため、次年度の使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
各実験での設定条件を同等にするため、入力刺激の強さをなるべく一定に保つ必要がある。そのためには、作製するガラス電極の形状にバラつきがないように、安定した作製装置(プラー)の使用が望ましい。現在使用しているものは経年劣化が疑われるため、新規の電極作製装置を購入し、精度のよい実験データの誘導を試みる。
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