研究課題/領域番号 |
16K00413
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小塚 淳 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, 研究員 (10432501)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 1分子計測 / ロボット / スクリーニング |
研究実績の概要 |
現代の生命科学において、各種疾病のメカニズムの解明など生命現象の根本的な理解には分子レベルでの研究アプローチが必須であり、超解像技術を駆使し、生体分子1個の動態や機能、構造を分析し、細胞/組織/個体の各階層で見られる現象の理解を目指す研究が近年広く行われている。今後、創薬における薬剤スクリーニングやゲノム多型における表現型解析、疾病の診断において生体分子の動態から定量される値を基に種々の判断を下し、分子メカニズムに即した詳細かつ正確、分析的な新しい医療技術へと発展させることが期待される。しかし、生体分子動態の物理・化学パラメータを高精度・高効率で求めるには技術的ブレークスルーが必要である。そこで本研究では、分子動態変化から薬効評価を行うハイスループットロボット顕微鏡開発を行う。また、超解像分子動態解析(細胞膜近傍の分子1個の動態(拡散や構造変化等)計測からレセプターの状態分布やその遷移レート、レセプター分子と下流のアダプター分子の動態相関など、様々な物理・化学パラメータを定量する手法)により定量される細胞内情報伝達や遺伝子発現、内在化、適応といった細胞機能の薬剤応答を指標とした新規スクリーニングシステムの構築を目指す。 これまでの研究実績として、1分子計測の効率化を実現する2つのロボット顕微鏡の試作を行った。1つは、二焦点同時計測により計測効率を向上させる正倒立型顕微鏡、もう一つは、長時間タイムラプス観測を可能にするインキュベーション型顕微鏡である。また、前記顕微鏡組込用の複数流路集積型のマイクロ流体デバイスの試作を行った。次に、本研究で提唱する1細胞1分子スクリーニング手法を実証するための3つの1細胞・1分子計測系を立ち上げた。TLR4-TIRAPシグナル伝達計測系、S1P走化性-分子動態相関計測系、IL6刺激-形質細胞分化in vitro実験系がこれにあたる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1分子計測のハイスループット化には、撮像視野の拡大や複数条件の同時計測が可能な流路集積型マイクロ流体デバイス等を計測システムに導入する事が効果的であると考えられる。そこで、1分子計測に対応したマイクロ流路を集積し、複数条件の並列計測が可能なマイクロ流体デバイスを開発した。また、長時間観測を実現するため、インキュベーター内に顕微鏡、マイクロ流体デバイス、サンプルプレパレーションロボットを内臓した顕微鏡を設計した。まず、投光管用およびサンプルプレート挿入用開口を設けたインキュベーターを開発し、安定した培養環境が維持できることを確認した。他には、正立と倒立顕微鏡を組み合わせた二焦点計測ロボット顕微鏡の開発を行った。次に、1細胞1分子スクリーニング手法を実証するための3つの実験系を立ち上げた。1)病原体関連パターン認識受容体(PRR)に結合するリガンドスクリーニングは重症敗血症等に対する治療薬開発に重要である。そこで、グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分(LPS)シグナル伝達経路イメージング系を立ち上げた。2)走化性関連分子スフィンゴシン1リン酸(S1P)アナログを用いたリンパ球の細胞走性制御は、多発性硬化症等の治療に有効である。そこで、S1Pシグナル伝達経路イメージング系を立ち上げた。3)自己抗体を持つB細胞の形質細胞分化がキャッスルマン病、間接リュウマチ、若年性突発性関節炎等の免疫疾患に繋がる事が知られており、細胞分化を誘導するinterleukin-6 receptor (IL-6R)シグナル伝達系の抑制が前記免疫疾患の治療に有効である事が示されている。そこで、IL-6シグナル伝達経路イメージング系の立ち上げを行った。具体的には、各シグナル経路関連タンパク質に蛍光リガンド導入可能なタグタンパク質を導入し、1分子計測が出来る事を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のゴールは、開発したロボット顕微鏡を用いて、様々なサンプルを計測し、作業効率を評価すると共に、データベース環境、人工知能によるビックデータ解析の環境を構築することである。また、本課題で考案する1細胞・1分子スクリーニング法は、以下の手順に従う。1)1分子の動態(リガンドの結合解離、拡散、構造変化、分子間相互作用等)を計測し、2)生体分子の物理・化学パラメータ(拡散係数、結合解離定数、状態遷移レート等)を求める。3)網羅的解析からリガンドの導入による各パラメータの変化をデータベース化し、システム生物学的解析からリガンド種・濃度と機能(シグナル伝達、遺伝子発現、内在化、適応等)の相関を求める。4)その上でリガンドによる高次機能(極性形成、細胞運動、走性、貪食等)の制御理論を確立し、細胞の診断、創薬、治療に役立てる。 今後は、選定したスクリーニングのモデルケース実験系に対して、開発した1分子スクリーニング装置を用いて、網羅的1分子解析を行い、リガンド種・濃度と分子動態の相関のデータベースを構築する。作成したデータベースを活用し、入出力関係の数理モデルを構築、細胞の高次機能制御理論の確立を目指す。 具体的には、まず、正倒立顕微鏡ロボットを用いて、自動1分子計測の作業効率を見積もる。次に、正倒立顕微鏡ロボットのノウハウをインキュベーター型顕微鏡ロボットに移植し、長時間(数日~数週間)タイムラプス計測能力を向上させる。次に、TLR4-TIRAPシグナル伝達計測系、S1P走化性-分子動態相関計測系、IL6刺激-形質細胞分化in vitro実験系を対象とした網羅的解析を行い、リガンド刺激―分子動態相関データベースを構築する。人工知能を用いた自動分子認識システムおよび特徴抽出システム等を活用し、リガンド刺激による細胞動態(サイトカイン産生、走化性、分化)の制御理論の構築にあたる。
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