これまで質量分析計を用いたプロテオーム研究は、得られた質量スペクトルをタンパク質のリファレンス配列データベースに対して検索して配列を決定していたため、変異を含むサンプルでの精密なペプチド同定は困難であった。特にがん細胞においては多量の変異が蓄積していることが知られており、ヒトの標準配列(リファレンスデータベース)に対してではなく、標準配列に加えて変異や挿入・欠失、スプライシングバリアントなどを含んだ個別のデータベース(バリアントデータベース)に対して検索を行う必要がある。このため、平成28年度にまず、次世代シーケンサより測定されたRNA-seqデータを利用して、質量スペクトルのデータから変異を含むペプチドを同定する手法を確立した。次年度にはRNA-seqから得られるmRNAの発現量と、質量スペクトルから得られるタンパク質の発現量を計算し、トランスクリプトーム階層とプロテオーム階層における発現量を比較する方法について検討を行った。最終年度には、これまで開発してきた手法を実際のがん細胞データ(市販の肺腺がん細胞を使用。プロテオームデータは京都大学薬学研究科にて取得、RNA-seqのデータはDBKERO(http://kero.hgc.jp/)から取得)に応用し、解析を行った。解析結果は日本発のプロテオームデータベースjPOSTdb(https://globe.jpostdb.org/)から公開する予定である。
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