研究課題/領域番号 |
16K00448
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研究機関 | 長野大学 |
研究代表者 |
田中 法博 長野大学, 企業情報学部, 教授 (90387415)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有形文化財 / 材質推定 / 分光画像計測 / 照明光推定 / デジタルアーカイブ / GPGPU / 光反射モデル |
研究実績の概要 |
本研究では有形文化財の姿を分光反射率情報に基づいて材質情報を記録できる画像計測に基づいた簡便なデジタルアーカイブ技術を開発する.材質情報は,通常のカメラで撮影した画像データから分光反射率情報として計測できるようにする. 平成30年度も小諸城址の建造物の建材を対象とした.この中で大型の有形文化財を計測する場合には,シーン全体を計測するために事前に照明環境の分光分布を精密に計測しなければならないという新たな課題が見つかった. 特に本年度は小諸城(小諸城址 小諸懐古園)の中でも小諸市内の別の場所に移設されている中仕切り門の材質分析を対象とした.この中仕切り門は,現在では解体されており,梁や柱などは切断されてしまっているが,江戸期以前の当時の建材がよい状態で保存されている.中仕切り門の移設先の北国街道ほんまち町屋館内の保管場所は計測用の光源が設置できない狭い場所なので,昨年度までの手法では計測が難しいという課題があった. そこで本年度開発した計測技術によって建造物周辺の照明環境を簡便かつ高精度に分光画像計測を計測することができるようになった. 昨年度からこの課題に取り組んでいたが,本年度は新たにRGBカラーカメラを用いて簡便に分光画像を計測する手法を開発した.このときRGBカラーカメラではRGBの3バンドしかないため,マルチバンドカメラよりも分光分布の推定精度が低下する.申請者はこれまでもRGBカラーカメラで照明環境を推定するための手法を開発(田中,望月,画像電子学会誌 2013)していたが,本年度は特にこの方法を大型の有形文化財に適用できるように任意の照明環境下で使用できるように改良した(田中ら,画像電子学会年次大会2018). 以上のように本年度新たに出てきた課題を解決し,本研究の目的である材質計測技術を構築することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体としては概ね順調に遂行できている.当初の計画にある分光画像計測と光反射モデルに基づいて実際の有形文化財の材質の分光情報を推定する手法は,ほぼ完成してきている.しかし,本研究では実際の有形文化財を対象としながら研究を進めているため,実際に研究を進めていく段階で予想できなかった課題がでてきている.その課題を解決するために新たな技術開発が必要となることがあった. 特に平成30年度は当初予定になかった新たな照明光源の計測技術を開発(2018年度画像電子学会年次大会で発表)できた.この技術が完成したことで当初の計画に加えて,高精度な照明環境推定技術を開発することが予想以上に計測の対象を広げることができることがわかった.文化財は,その時々の状況に応じて様々な環境で保管されることが多いため,必ずしも計測環境に適した場所には保管されていない. 平成30年度の大きな成果は,当初の計画よりも高精度に任意の場所で文化財の材質推定ができることがわかったことである.その結果,大きく2つの成果が得られた.それは(1)計測が難しい場所に保管されている小諸城中仕切り門の建材の計測ができるようになった.(2)デジタルアーカイブした文化財のCG再現の精度が向上した. 特に新たな照明環境推定技術を開発し,計測対象が増えたことで,研究計画のスケジュールに少し遅れが出てきているが,逆に当初の予想以上の研究成果が出てきているので,研究計画を1年間延長し,その成果をまとめていくことにした.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では当初の予定であった材質推定技術の開発については予定通り行われた.そして,その成果に加えて,RGBカラーカメラを用いて有形文化財が置かれているシーン照明環境を分光的に計測できる技術を開発できた.このことで当初の予定よりも,様々な条件下で文化財の材質が推定できるようになったので,計測の対象を大幅に増やすことが可能となった. 今後は,本手法の精度検証を進めていく必要があるが,これらの研究成果を用いて,新たに多くの文化財の材質を対象にして計測していく.このように新たな技術が開発したことにより計測の対象が増えたため,まず当初の計画よりも計測作業に多くの時間が必要となったが,予想以上に貴重な実験データを得ることができた.また,この実験データの精度や妥当性の検証をしていく必要があるが,ここでも精度検証をしていく対象が増えたため,より多くの時間が必要となった.このため,研究計画を1年延長して,より多くの実験と検証を行っていき研究成果をより確かなものにしていく予定である. 次に特筆すべき点は,本研究の成果は文化財の材質推定にとどまらず,様々な対象に応用が可能となっている.文化財の複雑な材質の推定が可能になったため,たとえば,本手法は化粧品などの材質推定にも有効であることがわかった.化粧は産業面だけでなく文化的な面からも重要な位置づけにあるため,デジタルアーカイブの対象を増やしていくことが可能となる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画に加えて,高精度な照明環境推定技術を開発することが予想以上に計測の対象を広げることができることがわかった.文化財は,その時々の状況に応じて様々な環境で保管されることが多いため,必ずしも計測環境に適した場所には保管されていない. 本研究では当初の計画よりも高精度に任意の場所で文化財の材質推定ができることがわかったので,計測が難しい場所に保管されている小諸城中仕切り門の建材の計測ができるようになった.新たな照明環境推定技術を開発し,計測対象が増えたことで,研究計画のスケジュールに少し遅れが出てきているが,逆に当初の予想以上の研究成果が出てきているので,研究計画を1年間延長し,その成果をまとめていくことにした. 来年度は,学会誌の投稿費用,追加実験のための旅費・計測機の運搬費・消耗品購入などに使用する.
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