本研究の目的は、公共図書館で実施するべき知的障害者への合理的配慮のあり方について実証的に検証し、具体的内容と方法を明らかにすることである。知的障害者と家族を対象に公共図書館利用の実態とニーズについて調査し、その結果と海外の先進事例をもとに、合理的配慮に必要な3点の事項について実施可能で有効だと考えられる10種類の取り組みを4館の公共図書館の協力を得て実施し検証した。 ①図書館利用のためのわかりやすい環境的配慮については、個室の設置、日本十進分類法のピクトグラムの制作、知的障害者の図書館利用への理解を促すポスターと合理的配慮の取り組みを紹介するマンガを制作しWEBで公開、わかりやすい図書館利用案内の制作と配布を行なった。 ②わかりやすい図書や視聴覚メディア資料については、LLブックの蔵書を増やしてLLブックコーナーを設置、マルチメディアDAISYの視聴や貸出の機会を設ける取り組みを実施した。その結果、LLブックとマルチメディアDAISYの貸出件数が増加し、取り組みの効果を確認した。 ③図書館職員によるわかりやすい対応やサービスについては、知的障害者に図書館見学と読み聞かせ等を行う図書館体験ツアーと、図書館職員が施設へ出向いてわかりやすい資料の紹介と貸出を行なうアウトリーチ、一般市民を対象とした支援者養成のための読書サポート講座を実施した。参加した当事者や施設職員からの意見聴取と、講座参加者へのアンケート結果から、取り組みの必要性と成果を確認した。 本研究は、知的障害者の図書館利用と読書支援を推進するために公共図書館が実施するべき合理的配慮のモデルケースを示したと考える。当事者の図書館利用や読書への興味や意欲を高めるためには、知的障害者のニーズを尊重し、図書館職員と施設や事業所職員が協力し合い、当事者と直接コミュニケーションをもって取り組むことの必要性を明らかにした。
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