研究課題/領域番号 |
16K00454
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
古賀 崇 天理大学, 人間学部, 教授 (60390598)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 政府情報 / 政府刊行物 / 公文書 / 情報リテラシー / デジタルアーカイブ / デジタル・フォレンジック / 一次資料を用いた教育 |
研究実績の概要 |
平成29年度は研究課題についての海外調査を実施すると同時に、研究課題に関連するテーマで成果発表を行った。 調査としては平成29年7月に、米国オレゴン州ポートランドにて開催された「米国アーキビスト協会(SAA)」年次大会に参加し、あわせて翌月にかけてカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC バンクーバー)にて研究者らへの聞き取りを行った。これらに共通する主要なテーマのひとつは「デジタル・フォレンジック」(デジタル上の情報・データの復元)であり、アーカイブズの実務への導入状況や、産・官・学の連携がそれを後押ししている現状などを確認することができた。また前年度の研究・調査に引き続き、「一次資料を用いた教育(Teaching with Primary Sources: TPS)」をSAAが力を入れて推進していることを認識した。これらの両面とも、政府情報が前面に出る活動とは限らないが、公文書ほか政府情報の取り扱いが問題視されている日本の現状に鑑みても、「政府情報リテラシー」を考える上での重要な要素と捉えることができる。なお、UBCではデジタル・フォレンジックの詳しい教育内容(シラバス、文献リストなど)を確認することもできたが、その分析については次年度に持ち越している。 一方、成果発表としても「デジタル・フォレンジック」が中心であり、上記のような米国・カナダでの調査結果も踏まえ、国際比較をレビューとしてまとめた成果を「研究ノート」(査読あり)として上梓した。また「日本におけるデジタルアーカイブに対する批判的検討(特に政策面を中心に)」も、政府情報と関連づけつつ成果発表を行い、上記の調査を踏まえた国際比較という観点も踏まえ、複数の口頭発表を行った。さらに、「政府情報リテラシー教育」を日本で実践した試みについても、口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「調査に基づく成果発表」という流れは、これまでに着実に達成できている。特に平成29年度は「デジタル・フォレンジック」の調査を踏まえた成果発表を行ったが、図らずも昨今の日本の「公文書や記録の改ざん・隠蔽・管理の不徹底」という政治問題、また「電子メールの復元による捜査上の証拠の保全」という警察・検察活動の実践に呼応する内容であり、日本および国際レベルでの社会的課題への対処に一石を投じることができた。一方、米国ないし北米における政府情報リテラシー教育に関する詳細な検討(大学院授業シラバスの分析など)については、前年度に引き続き、十分な成果に結び付けることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成30年度は、すでにいくつかの成果発表の機会が確定している。まず、「現在までの進捗状況」の欄で述べたような日本の喫緊の課題に即応し、日本アーカイブズ学会大会で「アーカイブズとアカウンタビリティ」と題する企画研究会シンポジウムを4月に開催するが、研究代表者は「情報公開とアカウンタビリティ」の標題で報告を行い、年度内刊行の学会誌にも同テーマでの論考を発表する予定である。また、8月開催の国際図書館連盟(IFLA)世界大会(マレーシア・クアラルンプール)では「日本のデジタルアーカイブ政策に関する批判的検討」という標題でペーパー発表を行う(先方の審査を通過済み)予定で、これにも本研究課題の成果を盛り込むこととしたい。あわせて、政府情報・公文書を含めたデジタルアーカイブを「一次資料を用いた教育(TPS)」に活用する米国・欧州の取り組みについても、依頼原稿としての論考を本年度内に発表する予定である。 もうひとつ、米国ないし北米における政府情報リテラシー教育については、前年度までの調査をもとに(必要があればメール等による追加調査も実施し)、主要例について「デジタルアーカイブの活用」および「デジタル・フォレンジックとの結びつき」という観点でまとめ、日本への示唆を提示する、というかたちでの成果発表(学会発表ないし論文化)を行うこととしたい。 「現在までの進捗状況」の欄で記す通り、政府情報を扱う本研究課題は、日本での昨今の政治問題と密接に結びつくものである。最終年度の研究によって、単なる「政府情報の公開・アクセス」にとどまらず、その活用・読み解き方の実践のヒントになり得るものを提示し、少しでも日本の現状の改善につながるよう、努める所存である。
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