研究課題/領域番号 |
16K00460
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊哉 広島大学, 情報メディア教育研究センター, 助教 (70311545)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 説文解字篆韻譜 |
研究実績の概要 |
第二年度に予定した作業内容はほぼ完了した。大徐本(岩崎本、平津館本、藤花シャ本原本、藤花シャ本中國書店影印本、陳昌治本、陳昌治本中華書局影印本、汲古閣通行本、汲古閣四次様本)・小徐本(述古堂本、汪啓淑本、祁シュン藻本)・段注本の対照表を作成し、これを漢字部品検索システムと連携させることで、前年度に作成した篆韻譜10巻本・5巻本対照表に岩崎本・述古堂本・祁シュン藻本を対応づける作業を効率化した。対照表の初版を完成させることができた。この対照表から、以下の知見が得られた。a) 旧説では10巻本には新修字はあっても新附字はないとされていたが、新附字が3字見つかった。b) 小徐本に有るが10巻本に無い字は118字、小徐本に無いが10巻本にある字は30字。したがって、脱落の規模は説文全体の1%程度である。篆韻譜10巻本の脱落がランダムに生じたとすると、400字近い新附字が殆ど無いことの説明は困難。c) 述古堂本・祁シュン藻本で違いがある場合、多くは10巻本と述古堂本が符合する。d) 現行の5巻本は二徐で違いがあるものを全て大徐に寄せているとは限らない。10巻本=小徐本のままで、大徐本と異なる場合もある。 また、副次的な成果としてはデータベースの大徐本対照資料としての活用がある。ISO/IEC 10646では、台湾・中国から説文小篆を現代漢字とは別の用字系として追加する動きがあるが、どの版本が適切か、版本ごとに字形が違う場合の統合判断をどうするのか、また、選択した版本の避諱や誤字はどの程度クリーニングするのか、といった議論が不十分であった。これについては従来より指摘が続いたが、実際の対応表が無いため、議論が深まらなかった。本課題の検討材料として作成した大徐本対照資料を提出し、標準化の議論を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の課題であった「適切な現代漢字がない小篆の取り扱い」に関しては「漢字・IDSを含む実体参照」を用いることで解決した。 説文解字の見出し字の中には、説解も同一な完全な重出字があることや、2017年現在のISO/IEC 10646では一対一で対応させることができない小篆(主に異体字として掲出されるもの)もある。HTML/XMLにおける古典的な解決方法として実体参照があるが、漢字をASCII文字で指定する手法は一覧性が著しく劣り、また現時点で十分に自明かつ安定した命名法が明らかでない。一方、画像を貼り付けるための規格としてはEGIX(またはJIS X 4166)があり、さまざまなメタデータを付加することはできるが、たとえばJSONの中に持ち込むには適切でない。そこで、「¥」などの実体参照の規定を精査したところ、文字名の中に統合漢字を用いた「&曲_古文;」のような形式や、IDSを用いた形式でも規格違反とは言えないことが判明した。これらの形式を用いることで、データベースのuniqueなkeyとして漢字(を含む文字列)を直接使い、視認性を下げずに検索性を向上させることができた。 もう一つの課題であった、画像分解については資料により状況が異なる。ある版本の画像分解情報をテンプレートマッチによって他の版本に適用する手法を検討しており、もっとも関係が近い汲古閣通行本と汲古閣四次様本については、汲古閣通行本の画像分解情報を移植することで効率的な分解作業ができた。この結果は対照表に組み込み済みである。ただし、初年度に撮影・公開した映像全てに対する画像分解と対照表組み込みは完了していない。第三年度に予定していた、説文解字五音韻譜の画像分解は、京大所蔵萬暦本に対する画像分解が完了している。 また、広島大学所蔵の清刊本『説文解字繋傳』のデジタル撮影を行い、公開した。
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今後の研究の推進方策 |
篆韻譜函海本と大徐本日照丁氏本の画像分解は準備中であるが、日照丁氏本に関してはその底本とされる海源閣本の影印出版が2017年に行われたので、優先順位の調整を検討している。ただし、海源閣本の影印出版は網点でのグレイスケールであるため、分解情報の移植は困難である。また、函海本については体裁の概要は同じであるが、字形や空間の撮り方は大きく異なっており、これも分解情報の移植は困難で、レイアウト分析をもとに機械的な分解を検討している。 また、説文解字五音韻譜の画像分解は完了しているが、説文の順序への再排列の効率化が課題として残っている。台湾中央研究院が公開している集韻のデータベースを用いた排列ツールの作成を検討している。 本年度撮影した広島大学所蔵の清刊本『説文解字繋傳』は序文や校勘記から判断して祁シュン藻本に基づくが、版式は原本とは異なっており、小学彙函本の版木の流用か、あるいはその翻刻と思われる(小学彙函本はその名前が封面や第一葉などに彫られているが、それらは広大所蔵本には見えない)。版式が異なるために一般的なレファレンスとしての使用には難があり、見出し字の出現箇所の対応表などの整備が必要で、準備を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注した書籍(中国での出版物)が年度内に入荷しなかったため、残額が発生した。最終年度中には入荷する見込みである。
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備考 |
広島大学文学部所蔵(現在中央図書館にて保管)の『説文解字繋傳』を撮影し、IIIF形式で公開した。この版本は祁シュン藻本の系列で、明記されていないが、小學彙函本の版木の流用か翻刻と思われる。
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