初年度は、計画通り『篆韻譜』5巻本の見出し字対応のテキストデータを入力し、『篆韻譜』10巻本・5巻本対照表を予定通り完成させることができた。この過程で、大徐本に関する対照表の作成および検字ツールの改良を進めた。 第2年度も計画の通り『篆韻譜』対照表に大徐本および小徐本の字形を対応づけ、課題の目標である『篆韻譜』『繋傳』諸版対応表の骨格を完成した。この過程では鈴木慎吾氏の切韻データベースにより『篆韻譜』5巻本の誤りをかなり修正することができた。 最終年度はこの対応表の公開に向け、画像の差し替えを行い、成果物公開を進めた。 本課題の成果の一つとして、これまであまり説文学で研究対象とされてこなかった『説文解字繋傳』四庫全書本の調査がある。『繋傳』四庫全書本は、一般に汪啓淑本との関係が言われるが、『繋傳』小篆対照表に四庫全書本の小篆を組み込んだ結果、四庫全書本『繋傳』は、脱落箇所に関しては汪啓淑本と符合する状況が多いものの、小篆字形は『篆韻譜』10巻本よりもさらに異なるものが少なくないことがわかった。汲古閣本説文解字(通行本)と、これを底本とする四庫全書本の大徐本(正確には四庫全書薈要本)の小篆の全数比較の結果、両本の差異は非常に少なく、誤写や意図的な改変によって四庫全書本『繋傳』の状況を説明することには難がある。従って、四庫全書本『繋傳』が他本と異なる理由は、その底本に求めることになる。四庫全書本と汪啓淑本が大きく異なることについては(四庫全書本の稿本をもとにしたとする)通説と反するが、近年では汪啓淑本の底本は四庫全書本(の底本)ではなく四庫館関係者が持っていた別の校本であるという董セイ宸氏の説と符合する。 また、宋版大徐本の典型的な資料として扱われてきた岩崎本説文解字に関して、續古逸叢書および四部叢刊初印本の画像比較を行い、加筆状況を明らかにする資料も公開した。
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