研究課題/領域番号 |
16K00466
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
小林 隆 東海大学, 政治経済学部, 教授 (70384881)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 都市居住者 / 農山漁村 / ソーシャル・ネットワーク / アクター / 制度 / 自治体間政策協調 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、研究計画に基づき、(1)文献研究ならびに事例研究を推進し、(2)地域を超える社会関係資本の状況を把握した。とりわけ地域性を超える個人の関係に基づく都市・農村政策の有効性を明らかにするために、研究協力者とともに、欧米事例の調査と国内事例の分析を進めた。その結果、得られた成果は次のとおりである。 (a)クラウドファンディングは、都市から農村への初期の財の移動には機能しているが継続性は有していない。地域ポイント制の導入等により、都市居住者による農山漁村のソーシャル・ネットワークへの参加や継続性が確保される可能性が示唆された。 (b)都市・農村間の人・財の移動に参加する個人の行動を個人と制度との関係とその相互作用ととらえ、政策としての展開可能を検討した。都市居住者、クラウドファンディング運営企業、農山漁村プロジェクト実行者、農山漁村活動情報提供者の4つのアクター間、それらと制度間の円滑な関係を支援する政策を組み込むことで、都市・農村間のソーシャル・ネットワークを維持できる可能性が示唆された。 (c)地域外に居住する個人が、特定の地域を選択して、貢献・福祉モデルの活動に参加する背景には、クラウドファンディングに連動するFacebookのプロファイル等の分析から、文化的社会的特質としての歴史性、景観性が存在することが明らかになった。 (d)個人が自らの判断に基づき行動する点について、地方創生政策における地域経済分析システム「RESAS」の活用状況を分析した。利用者個人の期待するRESASの役割は、地域の特性や将来予測への利用と地域間のバランスの確保や相互支援といった自治体間で協調する政策への活用である等を「小林隆『地方創生政策における地域経済分析システム「RESAS」の役割と課題』東海大学紀要政治経済学部第48号、pp.63-85、2016年9月」に公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、研究期間内において、(1)文献研究ならびに事例研究から、このモデルを用いた分析対象範囲を拡大し、ビッグデータ解析の際に用いる理論的概念枠組みを明確にする。(2)地域を超えた社会関係資本の状況を把握するために、ネットワーク上で地域を超えて活動する個人間の関係とそのプロファイル等の情報から行動の背景ならびに要因を分析し、組織(クラスター)の階層や、その活動目的等を把握可能とする。(3)社会システムの安定状態を把握する方法を明らかにする。以上により、ビッグデータ解析に向けた地域を超える都市・農村政策のための概念を構築することが目的である。 現在までの進捗状況として、(1)に関連して、研究実績の概要(c)(d)の成果によりモデル上の個人の行動の背景、ならびにビッグデータ解析の結果を踏まえて判断する個人の期待を明らかにし、理論的概念枠組みの明確化に近づくことができた。(2)に関連して、(b)(c)の成果からネットワーク上で地域を超えて活動する個人間あるいはアクター間の関係を分析することができた。(3)に関連して、(a)の成果からクラウドファンディングは初期の財の移動に効果が見られるが継続性に問題があり、その点について、(b)(c)(d)の成果は、個人の行動の背景を踏まえてアクター間、自治体間の制度連携が、安定した社会システムとしての都市・農村間のバランス確保に重要であることを示すことができた。 以上より、本研究は、その目的に沿って、おおむね順調に進捗していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、平成29年度の研究計画に沿って、クラウドファンディングサイトにおけるプロジェクトを分析するとともに、ふるさと納税等による寄付行為など財の移動に参加した個人を対象とした行動の背景ならびに要因に関わる調査等を実施する予定である。可能であれば、海外の事例も含めて検討する。これにより地域外に居住する個人が特定地域の貢献・福祉モデルの活動を行うクラスターを選択し支援する要因や行動の背景の分析を進める。 とりわけ平成29年度は、前年度に個人の行動の背景と要因を分析するのに対して、都市に居住する個人が農山漁村の問題解決にあたるクラスターの構造のうち、そのクラスターに参加する個人のプロファイルから、活動目的などの背景が把握可能であること、また、活動のパターン等からその階層性が把握可能であることを明らかにしたい。同時に、概念モデルの表現方法が現実の行動の状態と合致することを内外の事例分析から確認する。さらには、都市内ならびに都市間で活動する計画・市場モデル、貢献・福祉モデルの活動など、様々なクラスターにおいても、同様に現実のクラスターの行動状態を把握し、概念モデルにおいて表現可能であることを確認したい。 これらの成果を踏まえて、AI(人工知能)活用やビッグデータ解析のためのデータ選択、変数の設定などの具体の解析方法とその概念について検討を加える。
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