経済合理性に基づき構築された社会システムは、貢献的、福祉的な活動を支える社会関係資本の低下を招く。その結果、農山漁村の機能低下は、都市において福祉的、貢献的ニーズを増大させる。安定した社会システムは、経済合理性と社会関係資本のバランスとともに、都市と農村の個人が情報通信技術を介して相互に地域空間を超えて築く関係のもとで成立する。本研究は、政策研究の枠組みを超えて、AIによるビッグデータ解析の応用に向けて、新たな社会関係資本を前提とする都市・農村政策の概念構築を試みた。 主な成果は、次のとおりである。(1)都市・農村間のネット上の人と財の移動に関わる個人の行動と制度との関係分析から、都市居住者、クラウドファンディング運営者、農山漁村プロジェクト実行者、農山漁村活動情報提供者の4つのアクター間と、その円滑な関係を支援する制度を組み込むことで、都市・農村間のソーシャル・ネットワークは維持できる。(2)米国、中国のAI関連政策の分析の結果、AI政策は、官民一体のビッグデータ解析が必要となり、解析結果に対する民主的な政策補正よるガバナンスが必要となる。(3)そのガバナンスのためのAI導入の概念体系を社会科学と情報科学のオントロジー(Ontology:存在論)から理論的に整理すると、ガバナンスは、社会科学の存在論的な総合的アプローチを必要とするが、そこには膨大なデータを包括的に扱うAIによる機能分析が必要である。その概念構築においては、情報科学の機能主義的オントロジーと社会科学の存在論的オントロジーの概念を融合させるシステムが必要となることから、その体系を示した。 AIにより、クラスターの発生と崩壊、それに代替される機能と縮減すべき機能を把握することに加えて、本研究で構築した概念に基づく社会システム設計を進めることにより、都市・農村の持続と両者の安定したガバナンスは可能である。
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