研究課題/領域番号 |
16K00470
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
加藤 常員 大阪電気通信大学, 情報通信工学部, 准教授 (50202015)
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研究分担者 |
川口 洋 帝塚山大学, 文学部, 教授 (80224749)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シミュレーション / 歴史情報 / 歴史GIS / 研究支援 / 種痘 / 時空間分析 / スケジューリング / 遺伝的アルゴリズム |
研究実績の概要 |
本研究は歴史研究の現場で実践的利活用可能な,歴史事象のシミュレーション技法の開発研究である.3年目の当初の計画ではシミュレーションを行うプロトタイプシステムによる実験を試行する段階をめざした.プロトタイプシステムは前年度,木構造を染色体とする遺伝的アルゴリズムを基盤に構成したが,目的の種痘施療の実施計画を直接得られるスケジュール表を染色体とするモデルに変更した.また,重要な基盤情報のひとつである183村の接種者数について,2年目で『内務省衛生局雑誌第2号(1876)』と『旧高旧領取調張』に掲載された係数を元に推定した員数を用いたが,良い結果が得られなかった.より良い結果を得るために,上述の2つの史料に加え『明治廿三年徴発物件一覧表』(陸軍省軍務局),明治5年~9年の『府県統計書』,明治14年,明治17年~明治33年の『神奈川県統計書』,明治12年と明治17年の『静岡県統計書』を用いた接種者数の再推定を行った.街道を含む村間の経路網のデータの整備をほぼ終え,データベース化を完了した.施療時間や移動可能時間に関するパラメータ設定は研究分担者川口による関連史料取集,分析により設定値の範囲の根拠に目星が付いた.再検討した計数やパラメータなど基盤情報を,スケジュール表を染色体とする遺伝的アルゴリズムよるプロトタイプシステムへの組み入れを進めている.当該プロトタイプシステムについて,2019年度の人文科学とコンピュータシンポジウムにて報告する計画である.関連史料および明治期の種痘の普及と天然痘死亡率についてESSHC2018,SOLVI SOGNER WORKSHOP 2019 (EHESS)や日本人口学会で研究分担者川口により成果報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では,2年目の昨年内に構成されたプロトタイプシステムを用いて仮説の傍証を得るシミュレーションを開始し,その結果にもとづき技術的,歴史人口学的な両視座から検討を行い,シミュレーションの改善を行うことを企画していた.現在の進捗状況はプロトタイプシステムの再構成を行い,前提的設定や各種パラメータの有効値の範囲を見極め,取り込む段階に留まっている.計画段階では想定しなかったシステムの改修とパラメータ等の値を検討する試行を並行する開発となった.歴史的事象を復元するシミュレーションシステムは,自然事象に対するシミュレーションシステムの開発とは異なり、設定要素の吟味,取捨選択,シミュレーションモデルの構成・構築を順で行うのでは上手くいかないことが示唆された.遅れの原因は上述の点に集約され,初年度から遅延を引きずって来ている.現状のプロトタイプシステムの改修すべき諸点やその方策は定まっており,的確に作業を進めている.また,シミュレーションモデルの適応範囲の明確化は終えており,パラメータ値の有意範囲の設定の考え方など検討を進めている.順調に進んでいるとは言い難いが,遅れを挽回する方向で作業を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は本課題の最終年度に当たるため,遅延を取り戻し,プロタイプシステムによるシミュレーション(試行実験)を繰り返し,結果の集積,分析およびその評価を行う.評価については歴史人口学的意義を検討するとともに、史的仮説へのシミュレーションの技法について考察,展望を行う.史的仮説に傍証を与えるためのシミュレーションの適応について総括的な学会報告を行う。 (1)プロトタイプシステムを有効範囲と歴史事象(種痘施療)のシミュレートの度合いの検討,システムの整合的拡張性について模索する.当該システムのユーザである歴史研究者にとって操作性の良いインタフェースの設置とシミュレーション工程が把握できる表示系および保存系の充実を図る。この点は研究支援システムとして重要なポイントであると考えている。 (2)構築されるシステムの各フェーズ(処理工程)は仮説理解に対し意味ある処理単位なっているか検討し,一連のフェーズ群、(1)のインタフェースとシミュレーション工程の表現などを総合し、史的仮説に関するシミュレーション技法としてまとめる。 (3)仮説とシミュレーションとの関係、仮説の傍証としての結果、仮説を補強する要素として歴史人口学的議論を行う。また、歴史研究の手法として、シミュレーションの有効性を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
[理由] シミュレーションモデルおよびプロトタイプシステムの再検討やパラメータの史料事実との整合性の調整など当初計画では予期しなかった事態が発生し,研究進捗に遅延が生じ,プロトタイプシステムの構築環境整備の費用の一部予算とシミュレーショ結果の集積,分析,検討のためのハードウェアおよびソフトウェアの費用,業務委託予算等の執行をしなかったため,次年度使用額が生じた. [使用計画] 研究推進に当たり,プロトタイプシステムの構築,試行環境の整備のためのPC用ストレージなどの購入費用,シミュレーションの基盤情報に当たる空間情報の整備・更新費用,シミュレーション結果のデータベース化費用,成果報告を行う経費の使用を想定している.
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