本研究課題は,遠隔学習を支援するために,学習者の視点情報を集計したクラスRegion-Of-Interest(クラスROI)を提案し,遠隔学習の事中評価を研究する.従来の遠隔学習評価の多くはテストやアンケートによる事後評価である.これに対し,クラスROIは学習者の視点位置に基づく評価基準であり,学習実施中に学習者の評価を目指すものである.クラスROIはオンライン収集した学習者視点の重み付き和として定義し,学習者母集団の推定視点情報とする.新たな学習者の視点を得るとき,クラスROIを用いて母集団における視点確率を推定する.もし視点確率が学習者のコンテンツ理解度や学習意欲と関係しているならば,学習時刻や学習場所に依存することなく学習者を事中評価できる.
本研究では,学習者の視点をアイトラッカにより測定し,時刻情報と併せてサーバに蓄積する機構を開発した.蓄積されるデータは学習者数の増加に従い情報量が増大するビッグデータであることから,線形予測法を用いたデータ圧縮法についても研究を行った.この機構により,異なる時間・位置で遠隔学習を受講しても,同じ学習コンテンツに対する精密な視点情報を計測できる.次にモバイル端末に内蔵されたカメラで学習者の顔画像を取得し,PLS回帰を用いた機械学習に基づく視点計測法を開発した.この方法はアイトラッカに劣るものの,精度10%程度で視点を計測できることを明らかにした.
最終年度において,ノンパラメトリック推定法のひとつであるkernel smoothingを用いたクラスROI計算法をサーバに実装するとともに,クラスROIを用いた学習者の理解度指標を提案した.複数の被験者に対して遠隔学習と小テストによる事後評価を行い,理解度指標との相関を調査した.その結果,クラスROIを用いた理解度指標は標準レベルに達している学習者を有意に検出できることが明らかとなった.
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